ただ覚えているのは、もう二度とあの家の敷居は跨ぐまいと、心に固く誓ったことだけ
殺風景なワンルームにバスルームがひとつ。 最低限の家具だけが置
ラム。 清祢はうんざりして彼女をブロックしようと
佐本家のリビングに山と積まれた宝飾品の隣に、分厚
とママがくれた余裕ってやつ。 23歳で二億円の嫁入り道具を全
のバッグの壁、クローゼットを埋め尽くすオートクチュールと宝石の海。 時折投稿される家族LINEのスクリーンショットでは、氷のように冷たいはず
グループのメンバーは三人。 ―
深い親の仮面を被ってこう言ったのだ―― 「清祢、結納金はパパとママが預かっておくわ。 あなたが持っていっても、どうせ東海林家
は、その言葉に愚かにも胸
の翡翠やダイヤモンドを贈り、「裕福な東海林家に嫁いで肩身の狭い思いをしないように
でブロックし、削除した。 自分の評判など、とうに地に落ちている。
めた。 仕事用の制服の下には、タートルネックの薄手のインナー
イベートバンク、利生銀行。 彼女は北都市本店で融
すべて彼女の承認を経て、最終確認の後、
じる言葉ではなかったからだ。 それでも、大学で財務金融と経営管理の複数学位を取得した彼女の才
は、 先輩である古藤光佑が口利きで
繋がりを熱望している。 なんといっても、あそこの年間資金流動は十桁を超える。 長期的な協力関係が築ければ、我々の部署の年末ボ
こと業務に関しては、彼
します。 私の代わりに、加賀見靖隆氏の
な赤い招待状を、もう一枚彼女の前に滑
トを持って、会場に顔を見せるだけでいい」 光佑はす
を覚えたが、今はそれどころではなかった
、です
めた。 「私の代理としてプレゼントを渡す
まうのが怖かった。 光佑は、彼女を安心させるように最後の一押しをする。 「加賀見財閥のクレジット案件を獲得
んで恩返しをしなければ。 ましてや、加賀見家との繋がりを欲しても、その糸口
だきます!】 清祢は、感謝
前は、途切れることのない高
て路肩に寄せてもらった。 きらびやかな車の列に混
彼女は人混みに紛れてもなお、鶴が舞
ら、幾筋もの視線が彼
ックラインと華奢なウエストを際立たせている。 長い髪はうなじのあたりでシンプルにまとめ、
状を手に使用人の案内で
台の黒いベントレーが、静かにメインロード
を気だるげに着こなし、長い脚を組んでいる。 加賀見芳成は
声をかける。 「おい、婆さんは、ようやく菩
るのが先決ゆえ、仏道修行を終えてからお戻りになると。 ちょうど
にも介さない。 彼らは皆、加賀見靖隆の八十歳の誕生祝いに「参列
ち働き、食前酒とデザートが並ぶ。 賓客たちのざわめきが、音楽噴水の水音に溶け込んでいた。 彼は
を引いた。 眉目は怜悧で、切れ長の瞳は底知れ
なく惹きつける。 しかし、彼が放つあまりに強大なオーラと近寄り
早々に興味を失い、人目を避けて隅へと身を寄せた。 目の前の豪奢な食事やデザートに、めまい
んでこんなとこ
意げに会場を闊歩しては招待客たちと談笑している。 シャンパングラスを持つ仕草もわざ
東海林家が彼女のために用意したものだ。 そ
めんだ。 清祢は背を向けてその場を
今日みたいな大事な席、私があなたなら、パパとママ
目の前の妹を見据える。 ももの浅はかな魂胆など、手に取るようにわかる。 自分を挑発して怒らせ、こ
もりは毛頭なく、清祢は
の靴先が強く踏みつけた。 不意にバラン
たましい破壊音を立てて芝生の上に崩れ落ちた。 その

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