時雨 健太の小説・書籍全集
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天才外科医、記憶喪失の婚約者を治療中。
誰の目にも、竹内汐月は田舎の小さな診療所に勤める一介の医師。しかし、その正体が海外で名を馳せる「鬼の手」を持つ神医にして、最も権威ある外科医であることは誰も知らない。 三年前、若きエリートであった清水晟暉の心に、一筋の光が射した。その日を境に彼は竹内汐月に心を奪われ、彼女を射止めるべくすべてを捧げた。しかし三年後、不慮の交通事故が彼の輝かしい未来を奪い、再起不能の身となってしまう。 清水晟暉を救うため、竹内汐月は彼との結婚を決意する。だが、あの事故が彼から奪ったのは、健康な身体だけではなかった。彼の記憶までもが、無慈悲に失われていたのだ。 「君を好きになることはない」 そう告げる彼に、彼女は微笑んで答える。「大丈夫。私もまだ、あなたを受け入れたわけではないから」 両足の自由を失ったことで、彼は深い劣等感を抱き、心を閉ざしていた。彼女という眩い光を、指の隙間からこぼれるのを見つめるだけで、手を伸ばすことさえできない。しかし彼女は、そんな彼を追い詰め、逃げる隙を与えようとはしなかった。 車椅子に座る彼の目線に合わせて屈み、話をしてくれるのは彼女だけ。彼が苛立ちに声を荒らげたとき、その頭を優しく撫で、「大丈夫」と囁きかけてくれるのも、彼女だけだった。 常に笑みを絶やさない彼女を前にして、彼が必死に抑えつけていた感情は、やがて決壊する。 1v1、すれ違いなし