「まさか、君まだ処女だったの?」
夜が降り、バー内はけたたましい音楽に支配され、煙と酒の匂いが絡み合う昏い空間が広がっていた。
酔いに沈む周防喬香は、本来なら家に帰って眠るべきだった。だが、頭の中では匿名で送られてきた写真と親友・三上美琴の言葉が繰り返しよぎっていた。
「もし旦那が機能しないなら、若いうちに別れたほうがいいわ」 「だって、その快楽は一度味わったら忘れられないものよ!」
結婚三年、どんなに周防良遠を誘っても、彼はさまざまな理由で彼女を拒んだ。
だが、二時間前、周防喬香のスマホに匿名メッセージが届いた。
そこには周防良遠が裸でベッドに横たわる衝撃の写真があった!
彼の頭は引き裂かれた黒のストッキングとブラに寄りかかり、首には無数の口紅の跡が残り、目を閉じて安らかに眠っていた。
彼女は雷に打たれたような衝撃を受け、すぐに電話で確かめたかったが、相手は電源を切っていた。
愛情? そんなもの、ただの戯れにすぎない! くだらない!
酔いに溺れた周防喬香はカウンターに身を預け、繊細な顔にほのかな紅が差し、海藻のような髪が乱れて広がっていた。
結婚三年、最初は愛欲に抵抗していたが、成人女性として愛する相手と日々を過ごせば、そんな欲望が芽生えるのは必然だった。
特に今夜、夫・良遠の裏切りを知ったことで、抑えていた体の渇望が突如として呼び起こされた。
ぼんやりとトイレで顔を洗おうとした彼女は、階段でつまずきそうになったが、すんでのところで誰かに支えられた。
低く、深みのある声が耳元に響いた。
「お嬢さん、危ないよ」
周防喬香は涙に濡れた目で見上げた。目の前の男は高貴で端正な顔立ちに、墨色の冷ややかな瞳を持ち、背が高く、彼女の胸元ほどの高さに立っていた。
冷ややかで、危険な魅力。
その刹那、周防喬香の心が揺れ、激しい決意が芽生えた。
良遠が彼女を裏切った以上、もう彼のために純潔を守る必要はない!
数秒の逡巡の後、彼女は流れに乗って男の胸中に身を委ね、覚悟を決めて腕を伸ばし、彼の首筋に絡みついた……
長い乾季に恵みの雨を得たかのように、周防喬香は部屋に入るなり、自ら甘い口づけを差し出した。
男の大きな手が彼女の臀部を支え、喬香はその力に身を任せ、すらりとした長い脚を彼の腰に絡めた。
彼女がわずかに震えるのを見て、彼は低く笑った。「怖がるな、君を落とす気はないよ」
男は一見細身に見えたが、腕には確かな力が漲っていた。浮き上がった血管、肩甲骨の盛り上がった筋肉、重なるように刻まれた背筋の溝──その全てが、漲りあふれる男のホルモンを放っていた。
二人は熱く深く口づけを交わした。
乱れた息が交錯し、絡み合う唇からは甘くも淫らな水音が漏れる。その曖昧な響きと共に、二人は狂おしいほどに貪り合った。
その一夜の情事は、まさに天変地異──文字通り、天地がひっくり返るほどの激しさだった。
目覚めると、男は背を向け、腰にベルトを通していた。
周防喬香は、全身が綺麗に拭き清められていることに気づいた。どうやら、男は一夜を共にした後にも多少の気遣いは忘れなかったらしい。
彼女は目を凝らした。そのベルトはエルメスの限定モデルだ。最低でも400万円は下らない。なるほど、昨夜の相手は、相当の金持ちだったのだ。
「で、どうする?」
一夜限りの関係など初めての周防喬香には、この狂気の後の決まりごとがわからなかった。
男が振り返ると、全裸で目を覚ました彼女の姿があった。男の視線は、真っ白なシーツにぽつりと滲む紅色の跡へと滑り落ちた。「百万で足りるか?」
周防喬香は呆然とした。「…それ、どういう意味?」
男はただの一夜の遊びと思っていた。まさか相手が処女だったとは。 しかし、昨夜の彼女の未熟さと狂おしさは、確かに男を満足させた。
久しく味わっていない快感だった。彼はその対価を払う気になった。
「言葉通りの意味だ。足りなければ上乗せするよ」
周防喬香は悟った。「いらないわ」 お互いの合意の上でのことだもの、値段なんかつける必要ないわ」
「そうでなきゃ、私が売春婦みたいじゃない」
彼女はよろめきながら起き上がり、服を着ようとした。しかし、昨夜の激しい行為の後遺症か、足元がふらつく。その瞬間、男の手が彼女の柔らかな腰を支えた──
──男の脳裏に、昨夜のベッドでの狂乱がよみがえった。女の体は柔らかく滑らかで、未熟ながらも、その漏れる声は実に艶やかだった……
彼は冷ややかに、どこか気まぐれに言った。「まあ、君には満足だ。かなり魅力的だったよ」 「長期の関係、考えてみないか?」
周防喬香はこの見知らぬ男との初体験で満足を得たが、彼をただの道具と割り切っていた。
彼女は微笑み、男の頬に軽く口づけした。「ただの遊びよ」
帰宅した周防喬香は、全身を入念に洗い流した。あの男は本当に手荒だった。彼女の肌には、数えきれないほどのキスマークと歯型が刻まれていた。
しかし、その情事がもたらした陶酔感は、彼女がこれまで味わったことのないものだった。そして同時に、復讐を果たしたという強烈な快感が心の奥底から湧き上がってきた。
珍しく残業もなく、周防凌遠はいつもより早く家に戻ってきていた。
バスローブを纏った周防喬香が部屋を出ようとした時、ちょうど周防凌遠と鉢合わせした。
彼女の雪のように白い首筋に、くっきりと浮かんだキスマークがあまりにも目立っていた。
周防凌遠は突然彼女に詰め寄り、声を荒げて詰め寄った。「周防喬香!お前…外に男ができたのか?!」