凛の主治医でもある加藤医師だった。その深刻な顔つきを見ただけで、凛の心臓は氷水に浸されたように冷たくなる。 「父は……父の容態は……!」 すがりつくように問いかける凛に、医師は静かに首を横に振った。 「危険な状態です。緊急の心臓バイパス手術が必要です」 その言葉に、凛の顔から血の気が引いていく。壁に寄りかかり、ずるずるとその場に座り込んでしまいそうになるのを、必死でこ
ような冷たい笑い声を残して、一方的に電話を切った。 ツーツー…… スマートフォンから響く無機質な音が、死の宣告のように聞こえた。 **凛はスマートフォンを握りしめたまま、その場にへたり込む。**堪えていた涙が、堰を切ったように溢れ出し、冷たい床を濡らした。 どれくらいそうしていただろうか。 凛は、乱暴に涙を拭い去ると、ゆっくりと立ち上がった。悲しみは、いつしか激しい憎悪へと姿を変えていた。 ICUのガラス越しに、たくさんの管に繋がれた父親の姿が見える。 ――絶対に、死なせない。 凛はガラスに手をつき、強く、強く誓った。 他に、方法はない。 凛は、震える手で自分の持ち物をまさぐった。財布には、わずかな現金しかない。絶望的な気持ちで、ふと左手の薬指に視線を落とす。そこには、鈍い光を放つものがあった。鷹司暁から贈られた、巨大なダイヤモンドの婚約指輪。 (これだ……!) 一瞬、吐き気がこみ上げた。あの男との決別の証として、身につけていた高価な宝飾品は全て置いてきたはずだった。だが、この指輪だけは、長年肌身離さず着けていたせいで、まるで皮膚の一部のように指に食い込み、あの時も無理に外すことができなかったのだ。 凛は、その指輪を外そうとした。しかし、やはり簡単には抜けない。 「くっ……!」 構うものか。父の命がかかっているのだ。 無理やり引き抜くと、薬指の皮膚が赤く腫れ上がり、血が滲んだ。 指輪を、強く握りしめる。これを売れば、五百万になるかもしれない。いや、しなくてはならない。 迷いを断ち切り、凛は病院の出口へと向かった。 外は、すっかり日が落ちていた。冷たい夜風が、火照った頬を撫でていく。 タクシーを拾い、行き先を告げる。 「銀座まで、お願いします」 車内で、手のひらの指輪を見つめる。かつての甘いプロポーズの言葉が蘇る。『一生

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