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3年間の献身を捨てて、私は幸せになります

3年間の献身を捨てて、私は幸せになります

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1 チャプター/日

その3年間にわたる秘密の恋。三浦夕菜は信じて疑わなかった。藤本圭佑だけは、決して私を裏切らないと。 だが、それは自惚れに過ぎなかったようだ。彼の心、そして藤本家における“病弱な初恋相手”という存在の大きさを、彼女は完全に見誤っていたのだ。 従順に尽くし、肩身の狭い思いに耐え続けた3年間。その代償として彼が突きつけてきたのは、涙ながらの「他の男と結婚してくれ」という残酷な嘆願だった。 「約束する。半年後に離婚して戻ってくればいい。その時は必ず交際を公表して、君を正式な妻として盛大に迎え入れるから」 その言葉に、夕菜の心は完全に冷え切った。彼女は絶望を振り払い、圭佑とは二度と交わらない別の道を歩む決意をする。 今さら優しさを見せる圭佑に対し、彼女は幾度となく冷淡に背を向けた。「夫に対して恥じるような真似は絶対にしない」――そう固く誓って。 かくして、当初は契約のみで結ばれていた夫婦関係は、やがてかけがえのない“真実の愛”へと変わっていく。 しかし、それを許せなかったのが圭佑だ。嫉妬と後悔に目を血走らせ、千里の道を追って彼女にすがりつき、ただ一度の慈悲を乞うた。 そこへ、圧倒的な品格を纏った男が車から降り立った。彼は愛おしげに夕菜のふくらんだお腹を撫で、冷ややかな嘲笑を元恋人に投げかける。「藤本社長、私の妻のお腹も目立ってきた頃ですが……貴方はまだ、過去への未練を断ち切れないのですか?」

目次

第1章今夜、身を捧げるつもりか?

「夕菜ちゃん、安心して。俺が絶対に、父さんたちに君を桐山行隆みたいな変態に嫁がせたりしないから!」

まっすぐに伸びる公道を、一台の紺色のセダンが濃密な夜の闇を切り裂き、街の果てへと疾走していく。

運転席の藤本沢介は、固い決意を宿した目でハンドルを握りしめた。「今すぐ空港に送ってやる!」

後部座席では、精巧な陶器の人形を思わせる女性が、リボンで手足を縛られたまま横たわっていた。

彼女は身を捩ってリボンを解こうともがきながら、か細い声で言う。「沢介、もうやめて……」

「戻ろう?婚約パーティー、もうすぐ始まっちゃう。私たちが消えたら、おじさんたちだって説明できないよ……」

今日この日は、彼女と桐山家の長男との婚約の日――。なのに彼女は、居候先の次男に攫われ、無理やり駆け落ちさせられようとしている。

三浦夕菜が「婚約」と口にした瞬間、沢介の瞳は怒りの赤に染まった。「婚約だと?」

「お前はうちに預けられてるだけで、家族じゃない。なのに父さんたちのビジネスのために、桐山行隆みたいな街一番の変態野郎に嫁げって?ふざけるな!」

夕菜は、ようやく片手のリボンをほどいた。

自由になった手で残りのリボンを解きながら、彼女は必死に沢介をなだめようとする。「おじさんたちは無理強いなんてしてない。これは……私が望んだことだから」

「望んだこと?なら、どうして舞台裏で泣いてた」 沢介は、彼女の取り繕いを容赦なく暴いた。「今日の婚約パーティーに桐山行隆は出ない。とっくにそう言われてるだろ。お前一人で臨んだら、ただの笑いものだ」

「会ったことすらないくせに、お前の尊厳を踏みにじってる。そんな男に、俺は嫁がせない!」 吐き捨てるように言い、バックミラー越しに後部座席の彼女を睨む。「それに――お前、三年付き合ってる彼氏がいるだろ?」

「そいつの番号を教えろ。俺が連絡してやる。今すぐお前を連れて逃げてもらえ!」

「彼氏」という言葉に、夕菜の胸が沈んだ。

耳の奥で、あの男の声が蘇る――。

『夕菜、藤本家は今、とんでもない問題を抱えてる。頼れるのは桐山家だけなんだ……』

『半年だ。桐山行隆のそばで、半年だけ耐えてくれ』

『半年後には、俺が堂々と迎えに行く。父さんたちと沢介にも全部話して、君を俺の妻にする』

彼女と藤本家の長男・藤本圭佑は、誰にも知られないまま三年間付き合ってきた。彼はずっと「時機を見て公にする」と言い、彼女を待たせ続けた。

けれど彼女が最後に待っていたのは、藤本家の利益のため、会ったこともない男に嫁げと――彼自身の口で告げられる現実だった。

キキーッ!

鼓膜を突き刺すようなブレーキ音が夜闇に響き、夕菜の意識は否応なく現実へ引き戻された。

黒いSUVが、行く手を塞ぐように真横で停車していた。

「クソ……死にてぇのか!」 沢介は悪態をつきながら車を飛び降りる。「どこ見て運転してやがんだ、てめぇら――」

言い終える前に、冷たい金属の銃口が彼の額に突きつけられた。

沢介は言葉を飲み込み、顔面蒼白のまま身動き一つできなくなる。

気だるげで低い声が響いた。「江川、手荒な真似はよせ。藤本家の次男坊を怯えさせるな」

SUVから降り立ったのは長身の男だった。引き締まった体躯に近寄りがたい冷ややかな気配を纏っていた。

男は銃を持った黒服をよそに通り過ぎ、ゆったりと後部ドアを開け、優雅にそれを押さえたまま、視線を三浦夕菜の上から下まで這わせる。からかうような低い声で彼女に語りかける。「……駆け落ちか?」

鋭く、値踏みするような視線に射抜かれ、夕菜の背筋が冷えた。

彼女は眉をひそめ、蒼白な顔で固まる沢介を一瞥する。「彼を放して」

「答えろ」 男は唇の端を吊り上げ、江川のそばへ歩み寄った。

次の瞬間、流れるような手つきで銃を奪い取り、カチャリと弾を装填する。

冷たい銃口が、今度は沢介のこめかみに押し当てられた。

藤本家の次男坊として普段は威張っていても、彼はまだ二十歳そこそこの若者だ。本物の銃など、見たこともない。

みるみる血の気が引き、体が震えだす。「や、やめろ!」 「俺は藤本家の人間だぞ!」

銃を握った男は、ぐいと銃口を突きつけ続けつつ、含み笑いで後部座席の夕菜を見やる。「――駆け落ちか?」

男の手の中の銃を見て、夕菜の心臓は張り裂けそうだった。

彼女は腹を括って言う。「彼は友達です。ただのドライブです」

男は動じない。「婚約パーティー直前に?」

夕菜はおそるおそる顔を上げた。

夜の闇に縁取られた男の輪郭は、鋭く覇気に満ちていた。

彼女は唇を噛んだ。胸の奥で警鐘が鳴る。

この男が今日の婚約を知っているなら、相手の正体も知っているはずだ。

女は腹を括り、ふてぶてしく眉を吊り上げて言い放った。「私は桐山行隆の婚約者よ!いくつの度胸があって、桐山様の女に手を出したの?」

「銃を下ろして。今すぐ」

「さもないと、ウチの未来の旦那に知られたら、あんたたちただじゃ済ませないわよ!」

彼女は賭けていた。桐山行隆の名に逆らえるはずがないと。

沈黙が数秒、場を支配した。

男が低く笑う。「桐山行隆が嫌で、逃げてる――そうだろ」

「誰が逃げてるっていうの?」

夕菜は眉を軽く上げた。「うちの旦那様が今日は超忙しくって式になんて来られないから、友達に送ってもらって会いに行くところよ」

そう言って、縛られた両手を持ち上げる。「見える? これはあの人へのちょっとロマンチックなサプライズ。私自身を贈り物にしてあげるの」

「身の程を知りなさい。さっさと放しなさいよ。旦那様とのイチャイチャを邪魔したら、ただじゃ済ませないわ」

再び、辺りは静まり返った。

男は拳銃を収め、低く言った。「つまり――今夜、身を捧げるつもりか」

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