水無月 ほのかの小説・書籍全集
盗まれた旋律、裏切られた愛
私が三年間、魂を注ぎ込んできた曲。 婚約者の涼介と、妹の彩奈に、それを盗まれた。 私たち三人のキャリアを決定づけるはずだった、私の最高傑作。 半開きのレコーディングスタジオのドアの向こうから、彼らの残酷な計画のすべてが聞こえてきた。 「彩奈、ネクスト・ブレイク・アワードを獲るにはこれしかないんだ」 涼介が必死に説得している。 「これが最後のチャンスなんだぞ」 私の家族までもが、グルだった。 「あの子に才能があるのはわかる。でも、プレッシャーに弱すぎるのよ」 彩奈は、まるで両親の言葉をなぞるかのように言った。 「家族のためには、この方がいいの」 彼らにとって私は、エンジンであり、道具。 娘でもなければ、三ヶ月後に結婚を誓った女でもなかった。 真実は、ゆっくりと全身を蝕む、凍てつくような毒だった。 愛した男も、育ててくれた家族も、私が生まれた日からずっと、私の才能を食い物にしてきたのだ。 そして、今お腹にいるこの子は? 私たちの未来の象徴なんかじゃない。 彼らが私を閉じ込めるために作り上げた檻にかける、最後の錠前に過ぎなかった。 後になって、涼介はマンションの床で震えている私を見つけ、心にもない心配そうな素振りを見せた。 彼は私を抱きしめ、髪に顔をうずめて囁いた。 「俺たちには、輝かしい未来が待ってる。お腹の子のことも、考えなくちゃ」 その瞬間、私は自分が何をすべきか、はっきりと悟った。 翌日、私は一本の電話をかけた。 別の電話口で盗み聞きしている涼介の声が、初めて本物のパニックで震えるのを感じながら、私は冷静に告げた。 「はい、もしもし。明日の予約の確認をお願いします」 「ええ…『手術』の件です」
アルファの偽りの番、オメガの静かなる戦い
私は最下層のオメガ。けれど、月の女神様自らが、私こそがアルファであるカイネ様の「運命の番」だと告げた。 一年もの間、私たちの愛はおとぎ話そのものだと信じきっていた。 そしてこの八ヶ月間、私のお腹の中には、彼の息子であり、世継ぎとなる子が宿っていると、そう思っていた。 あの日、あの羊皮紙を見つけるまでは。 私と出会う一年も前に、彼は自ら世継ぎを成せぬ身体になるための、血の儀式を執り行っていた。 すべては、別の女のために。 私が宝物のように大切にしていた恋物語は、すべてが嘘だった。 彼と彼の戦士たちは、私のお腹の子の父親が誰なのか、賭けの対象にしていた。 彼らは、凍えるような寒い夜には、私を慰みものにして笑っていた。 彼は私に薬を盛り、彼の真実の愛する人、セイラに、楽しみのために私の膨らんだお腹を蹴らせた。 そして、意識を失った私の体を、褒美として部下たちに与えた。 私の運命の恋、約束されたはずの未来。 それは、彼らが楽しむためだけに弄んだ、吐き気のするような、歪んだゲームに過ぎなかった。 踏みにじられ、心も体もズタズタに引き裂かれ、横たわる私の心は、ただ壊れただけではなかった。 砕け散り、氷のように凍てついた。 だから私は、禁忌の薬草を飲み干した。私の中に宿る命を、この手で終わらせるために。 これは、絶望からくる行動ではない。 私の戦争の、始まりの合図だった。
この恋が、私の人生を壊した
容姿も才能もあり、人生の勝者だと思っていた——氷川詩織は、そう信じていた。 けれど気がつけば、彼女の手札はすべて崩れ去っていた。 中絶、容姿の損壊、仕事の失墜、名誉の破壊——何もかもが壊れていった。 なぜ、こんなことになったのか。 きっと、あの男——一条慎との恋が始まりだった。 愛は人を救うはずだったのに、彼女にとっては地獄の扉だった。 ——これは、一人の女が「愛」を代償に、何を失ったのかを描く痛切な記録。
