黄泉のヴィーナス
私、タマラは父親の手によって埋葬されました。
死して尚も、私の心はあの方のもの。恋する気持ちを抱いたまま、私の魂はツンドラの永久凍土の深い土の中で、肉体のともに留まっていました。やがて春の訪れとともにあの方が私を探しにやってきました。
「タマラ、私が迎えにきたのだから、どうか隠れていないで出ておいで」
探しにきたあの方は、地位のおありになる公爵様。公爵様は私(わたくし)に向かって呼びかけます。私は公爵様が愛してくださった、以前のような美しいタマラではなくなってしまいました。凍った土の中で、すっかり変わり果てた屍なのです。愛を失うことに恐れを抱いた私は、あの方の前に現れるのをあきらめます。
官能的ゴシックファンタジー
登場人物
タマラ(私=わたくし)この物語の主人公
公爵様(あの方) 町に現れた謎の紳士。タマラを自分のものにしようと近づく
タマらの父 バル(酒場)を経営している
二コライ 粗野な猟師はタマラの幼馴染は、自分はタマラのいいなづけだと自称している
町長 町一番の実力者
町長夫人 欲の深い性格で公爵に娘を嫁がせようとする
イザベラ 町長の娘は公爵夫人になりたがる
神父 教会にこようとしない公爵を異端だと怪しむ