ホームページ / 恋愛 / 婚約破棄された私、冷酷な御曹司に拾われる
婚約破棄された私、冷酷な御曹司に拾われる

婚約破棄された私、冷酷な御曹司に拾われる

5.0

桜庭家で居候として暮らし、次期当主である健太の秘密の恋人として6年間尽くしてきた。 しかし、私が事故で入院している最中、彼は深町商事の令嬢との婚約をテレビで華々しく発表した。 傷ついた足を引きずって屋敷に戻ると、彼は悪びれもせず「結婚はするが、愛人として今まで通り愛してやる」と傲慢に言い放った。 さらに、実の母親すら私を庇うどころか、令嬢の機嫌を取るために、私を靴の窃盗犯に仕立て上げようとした。 「この子は昔から嫉妬深くて、人のものを何でも欲しがるんです!」 6年間の愛も、家族の絆も、彼らにとってはただの利益と体裁のための道具に過ぎなかったのだ。 完全に絶望した私は、彼らに媚びるのをやめ、証拠のクリスタルの靴を粉々に叩き割った。 そして、かつて貸しを作った深町家の真の権力者、深町響に電話をかけた。 「深町さん。その貸し、今すぐ返してください」

目次

婚約破棄された私、冷酷な御曹司に拾われる 第1章 捨てられたシンデレラ婚約パーティーは画面の中

白い天井が、ぼやけた視界の中でゆっくりと焦点を結んでいく。

鼻をつく消毒液の匂いが、自分がどこにいるのかを無慈悲に告げていた。内山凛々紗は、右足首に巻かれた分厚い包帯とそこから伝わる鈍い痛みに、これが現実なのだと思い知らされる。

「気分はどうですか、内山さん」

部屋に入ってきた看護師が、手際よくバイタルをチェックしながら優しい声で尋ねてきた。その「内山」という響きに、凛々紗の胸がチクリと痛む。桜庭家で暮らして六年。それでも自分は、桜庭の人間ではないのだ。

「大丈夫です」

力なく微笑んでみせるものの、視線は何度も枕元のスマートフォンへと引き寄せられる。三日前の事故でここに運び込まれて以来、画面は一度も光っていない。

「恋人さん、まだいらっしゃらないの?」

看護師の無邪気な言葉が、心臓を細い針で刺すようだった。胸がきゅうっと締め付けられる。

「仕事が、すごく忙しい人なので」

まるで自分に言い聞かせるように、健太を庇う言葉を口にした。桜庭グループの次期当主である彼が、秘密の恋人である自分にだけ見せる優しい笑顔、温かい言葉。それだけが、息の詰まるようなあの家で、彼女が自分を保つための唯一の支えだった。

「でも、お怪我をされたんですものねぇ」

同情的な視線を残し、看護師は部屋を出て行った。

一人きりになった病室で、凛々紗はスマートフォンのロックを解除した。

健太からの着信もメッセージも、一件も届いていない。

不安が冷たい霧のように胸に広がる。だけど、彼に限ってそんなはずはない。きっと何か理由があるはずだ――そう自分に言い聞かせ、気を紛らわすようにテレビのリモコンへ手を伸ばした。

電源を入れた途端、画面に映し出された光景に凛々紗は息をのんだ。

きらびやかなホテルの宴会場。シャンデリアの眩い光を浴びて、見慣れた恋人が立っている。

画面の下を流れるテロップが、残酷な現実を突きつけてきた。

「桜庭グループ御曹司・桜庭健太氏、深町商事令嬢と婚約発表」

胃がぐっと収縮する。画面の中の健太は、純白のドレスを着た見知らぬ美女の隣で、完璧な笑みを浮かべていた。その女性は、深町綾乃。凛々紗も名前だけは知っている。健太からは「ビジネス上の付き合い」の相手だと、そう聞かされていたはずだった。

「長年の愛を実らせての婚約」

アナウンサーの甘い声が追い打ちをかける。凛々紗の知らない「長年の愛」という言葉が、胸を鋭くえぐった。

手からリモコンが滑り落ち、床に乾いた音を立てて転がる。全身から血の気が引いていくのがわかった。

ちょうどそのとき、病室のドアが勢いよく開いた。

「凛々紗!」

叫び声とともに、親友の上田麻里乃が燃えるような赤いドレス姿で駆け込んできた。派手な出で立ちと血相を変えた表情は、静かな病室の中であまりにも異質だった。

麻里乃はテレビ画面をちらりと見るなり、すぐに状況を察したようだった。床のリモコンを拾い上げ、乱暴にテレビの電源を切った。

「あのクズ男……!」

麻里乃は悔しそうに歯ぎしりし、青ざめた凛々紗の顔を見て声を荒らげた。

「ニュース見たわよ! あんたが入院してるっていうのに、何なのあれ?!」

麻里乃の激しい怒りの声が、凛々紗の言葉にならない感情を代弁しているようだった。

声が出ない。ただ親友の顔を見つめることしかできなかった。裏切られたという事実を、まだ脳が処理しきれずにいる。

「立てる? 退院手続きは済ませてきた。こんな所に一人でいさせられないわ」

麻里乃が、氷のように冷たくなった凛々紗の手を強く握りしめた。その温もりに、ようやく現実感が戻ってくる。

麻里乃に支えられ、凛々紗はゆっくりとベッドから起き上がった。足首に走る鋭い痛みが、胸の痛みと共鳴して全身を苛む。

「桜庭の跡取りだかなんだか知らないけど、人として最低よ!」

凛々紗のわずかな荷物を手早くまとめながら、麻里乃は健太への怒りをぶちまける。その声を聞きながら、凛々紗はぼんやりと窓の外を見ていた。今まで信じてきた世界が、音を立てて崩れていく。

それでも、手の中のスマートフォンを強く握りしめていた。健太を信じたい。けれど、画面に映っていた光景は紛れもない現実だった。

「さあ、行きましょう。あんな男のいる家に帰る必要なんてないわ。うちに来なさい」

麻里乃がそっと肩を抱く。

だが、凛々紗は小さく首を振った。

「ううん……帰る。確かめなきゃいけないことがあるから」

伏せられていた瞳に、かすかな光が宿る。

麻里乃はその決意を秘めた表情を見て一瞬言葉に詰まったが、やがて力強くうなずいた。

「わかった。なら私が送っていく。一人にはさせない」

病室を出ると、凛々紗は松葉杖をつき、痛む足を引きずりながら一歩一歩進んだ。その足取りは、これから始まる現実と向き合うための第一歩だった。

病院の廊下は長く、静まり返っている。心の中にあった健太への淡い期待は、あの映像によって粉々に砕かれていた。

麻里乃の運転する派手なスポーツカーに乗り込む。車が病院を離れる瞬間、凛々紗はもう振り返らなかった。裏切りの現場である桜庭家へ向かうことを、自らの意思で決意したのだ。

一体何を確かめようとしているのか、自分でもまだよくわかってはいなかったけれど。

続きを見る
img レビューを見る
ManoBook
アプリをダウンロード
icon APP STORE
icon GOOGLE PLAY