【特大スクープ!七瀬グループの後継者・七瀬陽翔と菅原家の令嬢・菅原陽葵が婚約、最強の政略結婚がビジネス界を席巻!】
巨大な液晶画面には、男と名家の令嬢が肩を並べて立ち、フラッシュが絶え間なく焚かれていた。
テレビでこの光景が繰り返し流れる中、大沢恵茉はソファに座り込んでいた。赤く腫らした目は、どれほど泣き明かしたかを物語っている。
「ガチャッ」
別荘の玄関ドアが開かれた。
全身からタバコの匂いを漂わせた七瀬陽翔が入ってくる。ネクタイを緩め、空っぽのダイニングテーブルを一瞥して眉をひそめた。
「どうしてまだメシができてないんだ?」
恵茉が振り向くと、その目は明らかに泣き腫らして赤くなっていた。
冷ややかで美しい顔にいつもの従順さはなく、ただぞっとするほどの静寂だけが張り付いている。
「七瀬陽翔、私たち別れましょう」
陽翔はスーツを脱ぐ手を止め、鼻で笑った。
長い脚を踏み出して目の前に立つと、細く長い指で彼女の顎をすくい上げる。「嫉妬したのか?」
恵茉は顔を背け、その手を振り払った。
「恵茉、ふざけるな」
陽翔は意に介さない様子で言った。「ただの政略結婚だ。2つのグループの深い結びつきに過ぎない。お前も分かっているはずだろ。親父が、身元も背景もない孤児を七瀬の妻に迎えることなど絶対に許さないと。 だが、お前を愛していることに変わりはない。俺の心の中では、お前こそが妻なんだ」
そう言いながら、身を乗り出してキスをしようとする。
恵茉は力いっぱい彼を突き飛ばした!
立ち上がり、失望に満ちた冷ややかな視線を向ける。「それなら、あなたの愛は本当に安っぽいのね!」
陽翔は手を伸ばして恵茉の髪をもてあそびながら、冷淡に言い放った。「あまり欲張るなよ。 俺と一緒にいるのも、七瀬の御曹司という身分が目当てなんだろう?」
「パァン――」
恵茉は思い切り陽翔の頬をひっぱたいた!
指を震わせ、目の周りを赤くして叫ぶ。「陽翔、この最低な男!」
舌先で頬の内側を押し上げながら顔を向けると、陽翔の瞳の色は瞬時に陰鬱なものへと変わった。
「もっと最低なこともできるぞ! お前はまだ大学も卒業していない。もし別れるなんて言ってみろ、七瀬家はすぐにお前への援助を打ち切る。七瀬家を離れたら、この蒼葉市で生きていく道すらなくなるんだ。後悔するなよ!」
恵茉は胸を激しく締め付けられ、目の前の男を呆然と見つめた。
これが、3年間愛し合った恋人の姿なのだ。
あの年、彼女は優秀な成績を収め、桜京市で最も優れた貴族学校に特例で入学を認められた。
しかし、貧困生という身分は、入学した瞬間から孤立といじめの運命を決定づけていた。
そんな時、陽翔は人生に差し込んだ一筋の光のようで、押し寄せる悪意から守ってくれたのだ。
長年援助し続けてくれていたのが七瀬家であり、彼がその御曹司であると知ったのは後になってからだった。
その後の熱烈なアプローチを受け、恵茉はそれを救済なのだと思い込んでいた。
3年間の秘密の恋。結局のところ、彼は自分を権力者にすがりつく金目当ての女だとしか思っていなかったのだ。
残酷に心が引き裂かれ、骨の髄まで痛みが走る!
「絶対に後悔なんてしない!」
目を赤くしながら、恵茉は一言一言、きっぱりと言い放った。
背を向けて立ち去ろうとした時、背後から意地の悪い声が響いた。
「孤児院のあの土地、開発業者が買い取って立ち退きさせたがっているんだが。あの場所が取り壊された後、孤児院がどうなるか見ものだな?」
踏み出した足が、その場に釘付けになった。
勢いよく振り返り、男の顔を睨みつける。「陽翔、孤児院に手を出してみなさい! もしあの子たちに何かあったら、絶対に命がけであなたに立ち向かうから!」
陽翔はその切羽詰まった様子を見てかえって笑みを浮かべ、軽薄な口調で歩み寄ってきた。
「命がけ? お前は何を武器に俺と戦うつもりだ?」
一歩一歩にじり寄り、目の前で足を止める。指先で頬をなまめかしくなぞりながら囁いた。「俺が指を動かすだけで、反抗する余地など全くなくなるんだぞ」
恵茉は嫌悪感から顔を背け、視線を外した。
陽翔は気にする素振りも見せない。「孤児院に手を出させたくないなら、簡単なことだ。 別れ話など持ち出さず、大人しく俺のそばにいて、聞き分けのいい愛人でいればいい。そうすれば、孤児院を困らせるような真似はしないと約束しよう」
「この卑怯者!」恵茉は怒りで目を赤くした。
陽翔は顔を近づけて首筋の匂いを嗅ぎ、その目に得意げな色を浮かべた。「少しばかり手段を選ばなければ、大人しくさせることなどできないだろう? 機嫌を直せ。明日の夜のパーティーで、石川家に契約書へサインさせるのを忘れるなよ」
恵茉は心の中で冷笑した。(結局、このことのために急いでやって来たのね)
石川家は桜京市のトップ医療企業であり、いくつかの重大プロジェクトの提携は、すべて七瀬グループと結ばれていた。
世間は皆、陽翔に手腕があるからだと思い込んでいる。
だが、誰も知らないのだ。当初、石川家は恵茉に医薬研究開発の専門職のポストを用意する意向だった。しかし、彼女が陽翔を助けたいがためにその誘いを丁重に断ったからこそ、石川家が一歩譲って陽翔との提携を選んだという事実を。
その時、陽翔のスマートフォンが唐突に鳴り響いた。
画面を一瞥すると、気づかないほどわずかに眉をひそめる。「会社で急用ができた。先に行く」
その言葉を残し、彼はスーツを手に取ると、返事すら待たずにそそくさと背を向けて立ち去った。
立ち去る後ろ姿を見つめながら、恵茉の瞳の奥にあった涙の光は、少しずつ冷たく凍りついていく。
(身分が低いからといって、好き勝手に操り、脅すことができると思っているなら……。陽翔、見くびらないで!)
彼女の声は氷のように冷たかった。「プロジェクトを成立させたい?絶対にあなたの思い通りになんてさせない!」