緋色 カケルの小説・書籍全集
十年間の愛と犠牲の果てに
10年間, 恋人である海斗の夢を支えるため, 私は自分の全てを犠牲にしてきた. 記念日と彼の重要な契約が重なったその日, 私はホテルのロビーで3時間も彼を待ち続けていた. やっと繋がった電話で告げられたのは, 「別の女がパニック発作を起こした」という身勝手なドタキャン. しかしSNSには, その女と高級スパでくつろぐ彼の姿が投稿されていた. さらに, 私が彼の為に考案し「古臭い」と一蹴された和菓子が, その女の「オリジナルスイーツ」として世に出ていた. 私の魂は, 彼らにとって都合のいい道具でしかなかったのだ. 私がパンアレルギーであることすら知らない彼. それなのに, 女の仮病にはどこまでも優しい. 私の10年間は, 一体何だったのだろう. 翌朝, 彼が女の元へ駆けつけるのを見送った後, 私は荷物をまとめた. スマホのSIMカードを折り, 彼との過去をゴミ箱に捨てる. これは, 私を失った彼への, 静かな復讐の始まりだ.
余命わずかな私は、冷徹な元彼に最後の嘘をつく
「余命はあと8年です」 医師にそう告げられた日、かつて私の全てだった男――高山翔一は、別の女性との婚約を発表した。 生きるための手術費を稼ぐため、私は恥を忍んで彼のもとを訪れた。 しかし、視力を取り戻した彼が私に向けたのは、氷のような冷徹な眼差しだった。 「金のために戻ってきたのか? 2年前に俺が失明した時、お前は逃げ出したくせに」 違う。あの時、私もまた脳が萎縮し記憶を失っていく不治の病を宣告されていたのだ。 彼のお荷物になりたくなくて、私は姿を消した。 だが、今の彼の隣には美しい婚約者・サエコがいた。 彼女は私をあざ笑い、わざと転んで私を悪者に仕立て上げた。 翔一は私にファイルを投げつけ、土下座を強要した。 そのストレスと衝撃で、私は彼との間にできていた小さな命さえも流産してしまった。 それでも私は真実を言わなかった。 かつて彼の母も同じ病で亡くなっていたから。愛する人が壊れていく恐怖を、二度も彼に味わわせたくなかった。 私は彼の中で「最低な裏切り者」として死ぬことを選んだのだ。 「俺の前から消えろ」 そう言われた通り、私は海外の療養所へ行くことを決めた。 すべての記憶が消え、私が「私」でなくなる前に。 しかし、私が空港へ向かったその日、サエコが勝ち誇った顔でばら撒いた私の診断書を、翔一が拾い上げてしまった。 「進行性健忘症……?」 震える手で真実を知った彼が病院に駆けつけた時、私はもう、目の前の男が誰なのかさえ思い出せなくなっていた。
