私の番(つがい)、アルファのダミアンは、彼自身の後継者のための神聖な命名式を執り行っていた。
唯一の問題?
それは、彼が祝っているのが、自分の群れに引き入れたはぐれ者の女、リラとの間に生まれた仔だということ。
そして、彼の真の番であり、正当な後継者を妊娠四ヶ月の私が、ただ一人、招待されていないということ。
私が彼女を問い詰めると、彼女は自らの腕を爪で引き裂き、血を流し、私が襲ってきたと叫んだ。
ダミアンはその芝居を見て、私に一瞥もくれなかった。
彼は唸り声をあげ、アルファの絶対命令(コマンド)を使い、私を強制的に立ち去らせた。私たちの絆の力が、私を傷つける武器へと歪められて。
その後、彼女は本気で私を襲い、突き飛ばした。
ドレスに血の花が咲き、お腹の子の命が脅かされる中、彼女は自分の仔を絨毯の上に放り投げ、私がその子を殺そうとしたと絶叫した。
ダミアンが駆け込んできて、床で血を流す私を見た。
彼はためらわなかった。
リラの叫ぶ仔を腕に抱き上げると、治癒師を探しに走り去った。
私と、彼の真の後継者を、死ぬために置き去りにして。
でも、そこで倒れていた私の心に、母の声が独自の回線を通じて響いた。
私の家族が手配した迎えが、縄張りの境界線のすぐ外で待っている、と。
彼が捨てたオメガが、実は世界最強の一族の姫君だったということを、彼はもうすぐ知ることになる。
第1章
エレナ視点:
冷たいスマホを耳に当てながら、私の指は震えていた。
無意味な人間の道具。
本当の会話は、私の頭の中で行われていた。何百キロも離れた母と私を繋ぐ、静かで、きらめく思考の糸。
「やるわ、お母様。彼のもとを去る」
その思いは、私たちの思念感応(テレパシー)という広大な空間の中で、痛みを伴う囁きとなった。
月の女神からの贈り物である思念感応は、本来なら安らぎの源であり、群れの仲間との繋がりを感じるためのもの。
今夜、それは私が断ち切ろうとしている命綱のように感じられた。
私の母、銀月の一族のルナ・セラフィナは、即座に応答した。
彼女の精神的な声は、月光と古の力が合わさった、心を落ち着かせる軟膏のようだった。
「やっとね、可愛い子。心配していたのよ。あの子、ダミアンは…その野心は、彼の縄張りよりもひどい匂いがするわ。赤石の一族は、脆い土台の上に築かれている」
「わかってる」
私はそう返信し、安堵の波が押し寄せるのを感じた。
がっかりされるのが、とても怖かったのだ。
「ただ…彼が運命の人だと信じたかった。女神様の贈り物だって」
「女神様が私たちに与えるのは選択肢よ、エレナ。鎖じゃないわ。私たちはあなたを待っている。一族が待っている」
私はリンクを切った。
頭の中の突然の静寂は、空虚であると同時に解放感に満ちていた。
私は大広間の冷たい石造りのアーチに寄りかかった。
薄いドレスを通して、冷気が染み込んでくる。
ここ、影に隠れていれば、すべてが見えた。
私の番、私のアルファ、ダミアンが部屋の中央に立っていた。
彼は赤ん坊を抱いていた。
まだ生後一ヶ月にも満たない仔が、赤石の一族の儀式用の毛皮に包まれている。
そして彼の隣には、まるで世界の女王にでもなったかのように輝くリラがいた。
一年前に彼が私たちの縄張りに連れてきた、はぐれ者の女狼。
群れのメンバーは歓声を上げていた。
彼らはダミアンに、仔に、リラにグラスを掲げた。
それは命名式。群れで最も神聖な儀式の一つ。
アルファの後継者のための祝宴。
そして、彼の真の、運命の番であり、正当な後継者を妊娠四ヶ月の私が、ただ一人、招待されていなかった。
群れの全員が知っていた。
彼らの共有された思考は、私の感覚の端で感じられる低い興奮のざわめきとなっていたが、彼らは皆、共謀して私に隠していたのだ。
苦い記憶が蘇る。
美術大学でダミアンに出会った日。
彼は自然の力そのもので、その野心は山火事のように燃え盛るアルファだった。
最初に私を打ったのは彼の香り――雷雨の後の松と、豊かで暗い土の香りが入り混じった、めまいがするような香り。
それは私の魂が即座に認識した香りだった。
心臓が肋骨に打ち付けられ、狂ったようなドラムのビートを刻み、原始的で独占的な咆哮が私の存在の最も深い部分で響き渡った。
「私のもの!」
私の内なる狼が叫んだ。
彼もそれを感じていた。
溶けた金色の彼の瞳が私を捉え、一瞬、世界が消え去った。
月の女神が私たちを祝福してくれたのだ。
そう、思っていた。
今、彼が他の女とその子供と一緒にいるのを見ていると、その記憶は残酷な冗談のように感じられた。
ダミアンのベータ(副長)から、思念感応を通じて不安の波紋が広がった。
集中すれば、公衆回線を傍受できる。
「アルファ、彼女はまだあなたの番です。こんなことを…」
ベータの思考には心配が滲んでいた。
ダミアンは振り向きもしなかった。
彼自身の精神的な声は鋭く、冷たかった。
「彼女は最近リラに敵対的だ。ただの儀式だ。彼女が知る必要はない」
「もし知られたら?」
返答は、鋭く、残酷だった。
私たちをまだ繋いでいる絆を突き刺す氷の破片のようだった。
「できるだけ隠す。いざとなったら、正式に彼女を拒絶するだけだ」
息が漏れ、私は口を手で押さえた。
私を拒絶する?
女神様自身から贈られた神聖な絆を、彼が断ち切るというの?
彼らのために?
リラの周りにいる群れのメンバーは、彼女におべっかを使っていた。
「私たちのアルファはなんて慈悲深いの。哀れなはぐれ者とその孤児の仔を引き取ってくださるなんて」
と、ある女狼が甘い声で言った。
別の女が笑った。
「エレナのことは心配いらないわ。たとえ知ったところで、どこへ行くっていうの?妊娠したオメガがアルファの保護なしで生き残れるわけがない。彼女は絶対に彼から離れないわ」
冷たく、硬い決意が私の胸に宿り、失恋の痛みを何か別のものへと固めていった。
もっと強い何かに。
彼らは皆、自分たちがいかに間違っているかを、もうすぐ知ることになる。