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解約後、狼王は野に放たれた

解約後、狼王は野に放たれた

5.0

彼を救うため、私は魂を砕き、銀毒を一身に受けて三年間、形だけの結婚に縛られて生きてきた。 雨の降る夜、私は子を失った。なのに彼は、それをただ「場の空気を乱すなよ」と笑い飛ばした。 私が解約書を差し出すと、彼はそれを引き裂き、私を監禁した。私はルナの座を欲しがっていると決めつけて。だが彼は知らなかった。私の命は、もう三ヶ月しか残っていないことを。 私は強制的に番の絆を断ち切り、すべてを捨てて姿を消した。 やがて彼は、あの日の真実を知った。私が血を吐いて瀕死の消息を聞き、狂ったように部族を駆け巡った―― 「沙良、戻ってこい。俺の命、お前に捧げる」 私は新たな狼王の胸に寄りかかり、静かに微笑んだ。「私の愛は、体の狼とともに、とうに死んだもの」

目次

解約後、狼王は野に放たれた 第1章 流産

月城沙良 視点

外の雷鳴は激しく、まるで屋敷の屋根を吹き飛ばさんばかりだった。

私は主寝室のバスルームにうずくまっていた。冷たい床タイルに腹部が激しく痛む。まるで誰かが子宮に手を突っ込み、その肉塊を無理やり引きずり下ろすかのようだった。

視線を落とすと、白いタイルが血で真っ赤に染まっているのが見えた。

血の匂いが濃く、私の弱々しいフェロモンの匂いと混じり合っている。

流産したのだ。

三年前から狼を失った役立たずの私にとって、強靭なアルファの子供を宿すことなど、身体が耐えられるはずもなかった。

それでも、私は賭けてみたかった。

この子を産むことができれば、もしかしたら大神魁が子供のために、ほんの少しでも優しさを分けてくれるかもしれないと。

だが、私は賭けに負けた。

小さな命は、私の身体から滑り落ちていった。 動かず、心音もなく、狼の子特有の温かい息吹さえ感じられない。

死産だった。

私は震える手で、血の海の中からまだ形をなしていない小さな塊をすくい上げた。 それはあまりにも小さく、毛も生え揃っていない。だが、その体から大神魁の匂いを嗅ぎ取ることができた。

涙が手の甲に落ち、血と混じり合う。

「ごめんなさい……赤ちゃん、ごめんなさい……」

私はこの子を守れなかった。

携帯電話が突然光った。 大神魁のために特別に設定した着信音だ。

私は慌てて通話ボタンを押した。

『大神魁!』

声はひどくかすれていた。『私たちの子が……いなくなっちゃった……どこにいるの?』

電話の向こうから、大神魁の声は聞こえなかった。

ただ、耳をつんざくような歓声と拍手が響くだけだ。

続いて、優しく甘い女性の声が、スピーカー越しにクリアに伝わってきた。

『今夜は私の授賞式にお越しいただき、ありがとうございます』

星野亜里亜だ。

オメガでありながら、狼族全体から宝玉のように扱われるあの女優。

彼女の声は、絶妙なタイミングで嗚咽を交えた。『ここまで来る道のりで、諦めようと思ったこともありました。 でも、私はとても幸運です。なぜなら、私の後ろには、いつも最強のアルファがいてくれたからです』

『ありがとう、大神魁。 いつもそばにいてくれて、ありがとう』

電話の向こうでは再び熱烈な拍手が起こり、口笛が混じる。『本当にお似合いの二人だ』という感嘆の声さえ聞こえてくる。

彼がそこにいたのだ。

私が子供を失い、死ぬほどの苦痛にのたうち回っている間、彼は別の女の祝賀会にいた。

『誰からの電話だ?』

電話の向こうから、ようやく大神魁の声が聞こえてきた。邪魔をされたことへの苛立ちが滲んでいる。

『月城沙良さんからみたい』 星野亜里亜の声は、どこか無邪気だった。 『でも、私が出たら何も話さないの。大神魁、もうケーキカットの時間じゃない?』

『ああ、放っておけ。早くケーキを切りに来い』

大神魁の声がはっきりと聞こえてきた。

『今日は君の晴れ舞台だ。他の奴に雰囲気を壊させるな』

ツーツー……電話は切れた。

バスルームには、再び息が詰まるような静寂が戻った。

「雰囲気を壊す……」黒くなった携帯の画面を見つめ、口元を引きつらせたが、涙さえ出ないことに気づいた。 大神魁の目には、星野亜里亜は虐げられ、守られるべき存在であり、私は家同士の婚約を盾に彼にまとわりつく、悪女にしか映らないのだ。

彼は私が妊娠していたことさえ知らない。 数ヶ月前、妊娠が分かった時、検査結果を持って彼を驚かせようとした。 彼は書斎で公務を処理しており、顔も上げずに冷たく言い放った。「忙しい。君の健康診断書を見る暇はない。 また金が欲しいなら、修平に言え」

私はその時、検査結果を背中に隠した。 今思えば、あの検査結果は、まるで笑い話のようだ。

私はうつむき、手の中の冷たくなった小さな塊を見つめた。 それはもう冷たくなり始めている。

家に知らせるべきだろうか?

私は連絡先にある冷たい「父親」という名前に視線を落とし、二秒ほど指を止めたが、結局自嘲的に首を振った。 彼らは私のことなど気にかけない。

新月狼群に十数年ぶりに見つかった本物の令嬢である私を、実の両親は泥まみれで世間知らずの娘としか見ていない。ウォコルフ家との縁談に利用し、利益を搾り取るための道具に過ぎないのだ。

そして、私の身分を十数年間奪っていた偽の令嬢、月城千景こそが、彼らの掌中の珠なのだ。

もし彼らが、私が大神魁の子供を守れなかっただけでなく、ルナの座さえ危うくなっていると知れば、私を完全に利用価値のない、新月狼群の面汚しだと見なすだけだろう。

この世界に、私にはもう家などない。

「これでいい」 私は指で、まだ開いていないその眉目形をそっと撫でた。「赤ちゃん、ママを恨まないで……ママが静かな場所に連れて行ってあげるから」

病院には行けない。

病院に行けば、私が狼を失った秘密がバレてしまう。

それは大神家の恥であり、私の最後の隠れ蓑だった。

あの年、彼を救うため、私は魔女に彼の体内の毒素をすべて私の狼魂に移してもらった。

私の狼は、私を守るために、すべての毒を受け止めてくれたのだ。

私は洗面台に手をつき、かろうじて床から立ち上がった。 足は震え、下半身には引き裂かれるような激痛が走る。

私は清潔な木の箱を見つけ、その中に柔らかいカシミヤのマフラーを敷いた。

子供をその中に入れ、蓋を閉める。

そして、黒いロングドレスに着替え、靴も履かずに、箱を抱えて屋敷を出た。

外は土砂降りだった。

雨が体に打ち付け、骨の髄まで冷え込む。 狼核が砕けた私にとって、雨に濡れることは感染症を引き起こす。だが、もうどうでもよかった。

私は庭の隅まで歩き、泥水の中に跪くと、手で少しずつ穴を掘り始めた。 指先は擦り切れ、血が滲み出る。

私は感覚のない機械のように、穴を掘り、箱を置き、土をかぶせた。

最後に、その上に石を一つ置いた。

すべてを終えると、私は雨の中に座り込み、煌々と明かりの灯る屋敷を見つめた。

意識の奥底で、私の狼魂が微かな哀鳴を上げ、そして完全に沈黙した。

狼魂が死んだ。私は激しく咳き込み、黒い血の塊を吐き出した。

それは銀の毒が心臓を蝕む兆候だった。

魔女は言った。黒い血を吐き始めたら、私に残された時間は三ヶ月だけだと。

「三ヶ月……」

地面の血が雨に洗い流されていくのを見つめ、私は力なく笑った。

この苦痛に満ちた日々も、ようやく終わりを告げるのだ。

その夜、大神魁は帰ってこなかった。

翌日、芸能ニュースで知った。星野亜里亜が祝賀会で微量のトリカブトが入った酒を誤って飲み、アレルギーで病院に運ばれたという。

大神魁は一晩中、彼女の病床に付き添い、片時も離れなかったそうだ。

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