エデン・マクブライドは、いつも規則ばかり守ってきた。しかし、結婚式の1ヶ月前に婚約者に裏切られたことを機に、エデンはルールに従うことをやめた。傷ついた彼女に、セラピストはリバウンドとして、新しい恋を始めることをすすめた。そしてそれが今の彼女にとって必要なことだとか。ロックユニオンで最大の物流会社の後継者であるリアム・アンダーソンは、まさに完璧なリバウンド相手である。同じ女性と3ヶ月以上付き合ったことがないことから、大衆紙に「3ヶ月王子」と呼ばれているリアムは、エデンとワンナイトラブを経験しても、彼女が自分にとってセフレ以上の存在になるとは思っていなかった。しかし目覚めたとき、お気に入りのデニムシャツと一緒に彼女がいなくなっているのを見て、リアムは苛立ちを感じながらも、妙に興味をそそられた。喜んで彼のベッドを離れた女性も、彼から何かを盗んだ女性も、今の今までいやしなかった。だがエデンはその両方をしたのだ。彼は彼女を見つけ出し、必ずその説明をさせると心に決めた。しかし、500万人以上の人口を抱えるこの街で、一人の人間を見つけることは、宝くじに当たるのと同じくらい不可能なことだった。しかし二年後、やっと運命の再会が迎えられたとき、エデンはもはやリアムのベッドに飛び込んだときのような純真な少女ではなく、今では何としても守らなければならない秘密もできていたようだ。一方、リアムはエデンが自分から盗んだものーーもちろん、デニムシャツだけではないーーをすべて取り戻そうと決意した。
「どうして私が快適なソファでくつろけずに、こんなクソ寒いところにいないといけないのか誰か説明してよ」 エデン・マクブライドは、自分と辛抱強く並んで待っている友人三人を睨みつけた。
一時間以上経っていたが、角を曲がった所まで出来ている長蛇の列は殆ど動くことがなかった。
ロックキャッスルにある行きつけの場所は入場するのが容易ではなく、特に週末にこの街で一番人気のあるDJが登場する時は、入場するのに同伴する相手を見つけなければならなかった。
「名前は言わないけど、あの男のことから立ち直るためにね!」 小学生の頃からの親友であるシエナは、鋭い目つきで振り返りながら静かにそう言うと、 彼女のオンブルブレイドの毛先で揺れている透明なアクリルビーズがジャラジャラと音を立てた。
シエナは「悪い」日にはただの可愛らしい娘に見えるが、 しかし今夜のような良い日には、とてもセクシーだった。 彼女たちのように、中に入りたくて躍起になり鈴なりになっているあの男達もそう思っているようで、 彼女から目を離そうとはしなかった。
「ああ、そうね。エデン。憂鬱になる時間は十分にあるわ」リディアは話に割り込んで、インスタに投稿するためのセルフィーを撮ると、 数秒以内に、彼女の電話は何百万もの熱狂的なファンからのいいねの通知に、ひっきりなしに通知音が鳴り始めた。 リディアはメイクアップ動画で、インターネット上で女神のような地位を築き、大成功を収めたユーチューバーなのだ。
「さっさと次の男を探したほうがいいわ」とカサンドラは特注のレザージャケットの襟を引き上げながら肩越しにブロンドの長髪を振り払った。 エデンが彼女と知り合ってからのこの五、六年間、彼女がスカートを履いているのを一度も見たことがなかった。 一度も、だ。 トムボーイだと自分で言っている彼女は、長身でスリムな体型で上品さがあり、どんな格好も似合う女性だった。
彼女たちの中で、エデンが最も素朴であったが、彼女はそれでも気にしなかった。 彼女の肌はとても青白く、どれだけ長く太陽の下にいても日焼けすることはなく、 茶ネズミのような色の長髪を何度か染めたことがあるが、頻繁に手入れをしないといけないのでやめてしまった。 彼女の最も印象的な特徴は、茶色のツリ目だった。 可哀想なことに、彼女はその目を分厚い眼鏡で隠さなければならなかった。というのも、眼鏡なしではコウモリのように目が見えなくなってしまうからだ。
「彼は吹っ切れてるのよ。 あなたもそうするべきだわ!」 リディアはさりげなく冷酷な言葉で言った。 デリカシーは彼女の長所では無かったのだ。
エデンはため息をつき、目をぎょろぎょろさせた。 彼女の友達が言っていることは正しかったが、 テレビの前で炭水化物を大量に食べながら安っぽいリアリティ番組を昼夜を問わず見ていても、彼女は構わなかった。 それに、何日も着替えもせず、髪を梳かさなくても全く気にしなかったし、 一人で泣きながら眠りにつき、腫れた目と顔で起床してもそれで満足していた。 彼女はただこの悲しみを急いでやり過ごしたくなかった。
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