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婚約破棄されたので、元婚約者の小叔父と幸せになります!

婚約破棄されたので、元婚約者の小叔父と幸せになります!

5.0

神代凛は三歳の頃、神代家に引き取られ、長く行方不明になっていた実の娘として育てられた。しかし十六歳の時、神代家当主の恭一郎は、凛が実の娘ではないことを知る。だが家の体面と事業上の利益、さらに九条家の跡取り・九条蒼介との婚約を守るため、その事実を隠した。 それ以降、凛は家族信託や後継者教育、経営の中枢から少しずつ遠ざけられていく。両親は、いずれ九条家へ嫁ぐのだから神代家のものを求める必要はないと言い聞かせた。 蒼介もまた、凛が誰の娘であっても結婚すると約束する。凛は、その婚約だけが自分に残された最後の拠り所だと信じた。そして十年間、神代グループと九条グループのために、デザインや企画を担い、自ら築いた人脈まで惜しみなく使い続けた。 物語は神代家の実の娘、神代美羽が見つかったところから始まる。 神代家は美羽の帰還を祝う盛大な宴を開く一方、凛の部屋や宝石、社交界での立場、後継者として与えられていたものを美羽へ譲るよう求める。さらに恭一郎は、凛が十八歳の時、自分と蒼介の結婚式のために描いた「白薔薇」シリーズについても、デザイン責任者の名義を美羽へ変更しようとする。 宴では重要な取引先への対応を凛に任せながら、神代家は彼女を表舞台から退かせようとしていた。その最中、蒼介は白薔薇のネックレスを美羽の首にかける。続いて九条家は、婚約相手を凛から美羽へ変更すると発表する。 十年間信じてきた約束を奪われた凛は、蒼介の頬を平手で打つ。そして神代家の家紋を外し、自分はもう神代家の娘でも、九条蒼介の婚約者でもないと宣言する。 神代家の両親も蒼介も、凛が一時的に感情を乱しているだけだと思っていた。蒼介は、美羽と結婚しても、凛を誰より特別な存在としてそばに置いてやれると考えていた。住む場所と仕事さえ用意すれば、いずれ自分のもとへ戻ってくると信じていたのである。 凛は神代グループを正式に退職する。さらに匿名デザイナー「R」として、白薔薇の制作記録や原画資料を主要取引先と海外のコレクション機関へ送付する。その結果、神代グループとの取引は一時保留となり、白薔薇シリーズの発売も停止する。 そこへ藤原アートコレクションの責任者藤原蓮が現れる。蓮は、白薔薇とRが過去に海外へ出した作品に共通点があることを確認する。さらに彼の戸籍上の名は九条蓮であり、蒼介の叔父にあたる人物だと判明する。 神代家を出た凛は、友人に紹介された小さな部屋で暮らし始める。 過去の原画や権利書類を整理しながら、アンティークジュエリーの修復、個人注文、小規模な展示会の仕事を受け、Rとして宝飾業界へ戻っていく。同時に、大企業に作者名義を奪われた若いデザイナーたちが、自分の名前と権利を取り戻すための手助けも始める。 蓮は凛の代わりに答えを決めず、何が欲しいのか、何を取り戻したいのかを問い続ける。凛は人の顔色をうかがって譲ることをやめ、少しずつ本来の快活さと強さを取り戻していく。二人もまた、修復の仕事を通じて信頼を深める。 一方、神代家は次第に混乱していく。美羽は実の娘として、凛の部屋、婚約、白薔薇、後継者としての立場を手に入れる。しかし顧客対応や商談、デザインの説明に慣れておらず、重要な場面で失敗を重ねる。神代家の両親は凛を責めながら、同時に失敗の後始末を頼もうとする。美羽もまた、社員や顧客が凛の能力を懐かしみ、蒼介までも自分といる時に凛を思い出していることに不安を募らせる。血のつながった娘であっても、凛の代わりにはなれない。 その恐怖に追い詰められた美羽は、自分こそが白薔薇の正式なデザイナーであるように見せかけるため、制作記録を偽造する。凛は本物の娘の帰還を受け入れられず、美羽の功績を奪おうとしているという噂を流す。 蒼介は神代家を離れた凛が困窮し、いずれ助けを求めてくると思っていた。 だが凛は、修復工房や小さな展示会を行き来しながら、以前よりも自由に生きていた。蒼介は人脈や権限を使って彼女の仕事に介入し、過去の情を持ち出して戻るよう説得する。しかし白薔薇の制作資料が明らかになるにつれ、蒼介はようやく知る。あのネックレスはただの新作ではなく、十八歳の凛が二人の結婚式を思い描きながら作った、約束の証だった。蒼介は、自分の手で凛の願いを別の女性へ渡してしまったことを悟り、すでに何も取り返せないと理解する。 凛は三歳の時から持っていた古いブローチを見つける。蓮は、その裏側の印が雪代家の私人工房で使われていたものだと気づく。ブローチは、亡くなった宝飾デザイナー・雪代真璃のものだった。雪代真璃は凛の実の母であり、雪代家でも屈指の才能を持つデザイナーだった。二十年以上前、まだ中堅企業だった神代ジュエリーは、真璃の新作シリーズの試作工房を務めていた。しかし雪代家の相続争いによって真璃は事件に巻き込まれ、幼い凛も死亡したように偽装される。計画は中止となったが、恭一郎は真璃の未公開資料を密かに保管していた。 その後、神代ジュエリーの経営が悪化すると、彼は真璃のデザインを細かく分け、名称や意匠を変えて神代家のオリジナル作品として市場へ出した。凛が十六歳の時、恭一郎は彼女のブローチと真璃の資料に残された印が一致することに気づき、凛が真璃の娘である可能性が高いと知る。 だが雪代家が凛を認めれば、九条家との縁談を失うだけでなく、真璃の作品を無断使用した責任まで問われる。そのため彼は調査結果を封印していた。 蓮は神代家の記録をたどり、藤原家の人脈を使って雪代家へ連絡する。 雪代家は長年凛を探していたが、偽造された死亡証明書によって、彼女はすでに亡くなったと思い込まされていた。過去のDNA資料と身分記録を調べ直した結果、凛が雪代家の一員である可能性が高いと判明する。 神代家と美羽は、凛は家を追い出された偽物の娘であり、九条家の叔父に取り入ったのだという噂を流していた。その直後、雪代家が正式に凛を一族の娘として認める。 神代家が「偽物の娘」と呼んでいた凛こそ、雪代家が二十年以上探し続けていた後継者だったと世間に知られる。 凛は、自分が手がけた作品の作者名義と正当な権利を取り戻す。母である雪代真璃から奪われた作品の権利も雪代家へ戻す。その後、凛は自らの名を冠した独立ジュエリーブランドを立ち上げ、自分と亡き母をテーマにした初の個展を開く。 展示会を終えた凛は、長い時間をかけて自分を尊重し続けた九条蓮の想いを受け入れる。 蒼介はそこでようやく、凛を完全に失ったのだと理解する。神代家は信用と事業基盤を失い、次第に衰退していく。 凛はもう、他人に名前を与えられ、何もかも奪われ、人生を決められる存在ではない。自分の名前を掲げ、自分の望みを選び、自らの力で権力の中心に立つ。

目次

婚約破棄されたので、元婚約者の小叔父と幸せになります! チャプター 1 奪われた白薔薇

「「白薔薇シリーズのデザイナークレジットは、美羽の名前に変更する」

  そう告げた神代恭一郎の声は、仕事の確認をする時と少しも変わらなかった。

  凛はすぐに返事をしなかった。

  廊下の向こうから、拍手と笑い声が聞こえてくる。グラスが触れる音も、途切れずに続いていた。

  一階の大広間では、二十年ぶりに見つかった実の娘、神代美羽を紹介するお披露目の席が開かれている。

  その真上の二階客室で、凛は机の上に広げていた白薔薇のファイルを閉じた。「……白薔薇は、私のデザインです」

  「白薔薇をデザインしたのが君だということは分かっている。貢献も評価している」恭一郎は少し間を置いた。「だが、美羽は戻ったばかりだ。神代家の娘として周囲に認められる実績が要る。凛なら分かるだろう」

  凛は聞き返した。「白薔薇のデザイナー名を、美羽さんに渡せということですか」

  恭一郎は眉を動かした。「言い方を選びなさい。これは神代家としての判断だ」

  「白薔薇は神代ジュエリーの新シリーズで、神代の設備と人員を使って商品化した。個人の作品として扱うには無理がある」恭一郎は机の上の資料へ視線を落とした。

  凛はファイルの端を押さえた。

  中に入っているのは、十年前のラフを印刷した複写だった。十八歳の誕生日のあとに描いた、最初の白薔薇のネックレスである。

  まだ商品企画になる前の、個人作品だった。紙の原画はアトリエに保管し、日付の残るスキャンデータだけは自分でも保存していた。

  九条蒼介だけには見せた。式の日につけてやる、と蒼介は言った。

  この客室に移されたのは、今朝だった。

  昨日まで使っていた部屋は、もう美羽のものになっている。服は先に運ばれ、棚に残っていた本や資料だけが、使用人によってこの客室へ移された。

  段ボールの中には、何冊ものスケッチブックが横向きに詰め込まれていた。角が少し折れている。

  恭一郎は、凛の沈黙を了承と受け取ったらしい。「それに、凛は近いうちに九条家へ嫁ぐ。神代の後継者として前に出る必要はもうない。美羽とは立場が違う」

  凛は顔を上げた。「もし、私が九条家に嫁がなかったら?」

  恭一郎は初めて凛を正面から見た。

  「蒼介くんとの婚約は続いている。彼は無責任な男ではない」

  「そうですか」

  「凛」恭一郎の声が少し低くなる。「今夜の宴では余計なことを言わないでくれ。美羽は慣れない場で緊張している。凛が支えてやれば、すべてうまく収まる」

  その時、廊下から早い足音が近づいてきた。

  神代明子が扉の前で足を止める。

  「凛、佐伯会長がいらしてるわ。美羽ではまだ話が続かないの。あなた、下で対応してちょうだい」

  明子は淡い色の訪問着を着ていた。胸元には、凛が以前選んだ真珠のブローチがついている。

  凛は母を見た。「私は、今日はどういう立場で下りればいいんですか」

  明子は一瞬、意味が分からないという顔をした。

  「どういう立場って……あなたは神代のことを一番よく知っているでしょう」

  「美羽さんのお披露目の席ですよね」凛は言った。

  「だからこそよ。美羽の顔を立てるためにも、あなたが裏で支えないと」

  恭一郎も頷いた。

  「佐伯会長は白薔薇シリーズにも関心を持っている。説明は君の方が慣れているだろう」

  凛はファイルを机に置いた。

  「分かりました」

  一階へ下りると、空気が変わった。

  花の香りと香水、シャンパンの匂いが混ざっている。

  大広間の中央には、美羽が立っていた。白いドレスを着て、隣の婦人に何か尋ねられている。

  答えに詰まった美羽が凛を見た。

  明子がすぐに凛の背中を押した。

  「凛、佐伯会長のご対応をお願い」

  凛は美羽の横に立ち、婦人へ向き直った。

  「佐伯会長。先ほどのお話ですが、白薔薇シリーズは古典的な蔓模様を現代的に組み直したものです。中心石には淡水真珠を使う予定で……」

  説明を始めると、美羽はほっとした顔で微笑んだ。

  その顔を見て、凛は言葉を切りそうになった。

  けれど佐伯会長が頷いているので、最後まで説明した。

  会話が終わると、美羽が小さな声で言った。

  「ありがとうございます、凛さん。私、こういう話はまだ全然分からなくて」

  「美羽さんも、覚えれば分かります」

  凛はそう返した。

  美羽は少し困ったように笑っただけだった。

  その時、大広間の照明が一段落とされた。

  司会者が前へ出る。

  「皆様、本日は神代家のご令嬢として、美羽様をご紹介する席にお集まりいただき、誠にありがとうございます。ここで、神代家より新作発表がございます」

  凛は顔を上げた。

  黒いベルベットの箱を持って前に出たのは、九条蒼介だった。

  彼と目が合う。

  蒼介はすぐに視線を外した。

  箱が開かれた。

  中に入っていたのは、白薔薇のネックレスだった。

  凛の隣で、美羽が息を呑む。

  「まあ……」

  司会者が声を張る。

  「神代ジュエリー新シリーズ、白薔薇。その最初の一点を、本日、神代美羽様へ」

  拍手が起きた。

  蒼介は美羽の後ろに立った。

  美羽が少し首を傾ける。

  蒼介の指が留め具を留めた。

  白薔薇が、美羽の鎖骨の上で光った。

  凛は、その手元を見ていた。

  十年前、同じ人の手が、あのデザイン画をめくった。

  結婚式の日につけてやる、と言った。

  今、その手は別の女の首に同じ白薔薇をかけている。

  九条正臣が前へ出た。

  「続いて、九条家よりご報告があります」

  広間が静かになる。

  凛は蒼介を見た。

  蒼介は美羽の隣に立ったままだった。

  正臣は穏やかな声で告げた。

  「神代家と九条家の婚約について、両家で協議を重ねてまいりました。本来、この婚約は神代家の血筋を継ぐ令嬢と九条家の後継者を結ぶものです」

  凛の手から、持っていた資料が少し滑った。

  「よって、婚約者を神代凛さんから神代美羽さんへ改めることとなりました」

  ざわめきが広がった。

  誰かが凛を見た。

  一人が見ると、周りも続いた。

  美羽は不安そうに蒼介の袖を掴んだ。

  「蒼介さん……」

  蒼介は小さく頷き、美羽を落ち着かせた。

  凛はその様子を見ながら、前へ出た。

  蒼介が気づく。

  「凛」

  乾いた音が広間に響いた。

  蒼介の顔が横を向く。

  美羽が短く悲鳴を上げた。

  近くの客がグラスを落としかける。

  凛の手のひらは熱かった。

  「覚えている?」

  蒼介は頬を押さえず、凛を見た。

  「この白薔薇を、誰のために描いたか」

  蒼介は答えなかった。

  恭一郎が声を荒げる。

  「凛、何をしている。すぐに謝りなさい」

  明子も青い顔で近づいてきた。

  「凛、今はだめよ。お願いだから」

  美羽は涙を浮かべていた。

  「凛さん、ごめんなさい。私、何も知らなくて……」

  凛は美羽を見た。

  美羽の手は、白薔薇の花びらに添えられていた。

  蒼介が低く言った。

  「凛。今日だけは、やめてくれ」

  その声には怒りよりも、疲れがあった。

  凛は胸元に手を伸ばした。

  神代家の家紋バッジを外す。

  それを近くのテーブルに置いた。

  金属が白い皿に当たり、小さな音を立てる。

  「今夜で終わりにします」

  恭一郎の顔色が変わった。

  「神代家の娘としても、九条蒼介の婚約者としても、ここにいるのは今日で最後です」

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