九条光の小説・書籍全集
貪る狼と気まぐれな羊
彼女は、かつてないほど奔放だった。持てるすべての「歓」を、彼に捧げた。 彼もまた、かつてないほど自制を失った。持てるすべての「貪」を、彼女に捧げた。 激しく求め合うことも、蜜のような情事も、それは二人の暗黙の了解に過ぎなかった。 ゲームは終わり、彼女が別の誰かの手を引いて堂々と去っていく。その時になって彼は気づいた。このゲームの主導権は、とうの昔に自分から失われていたのだと。 「面白い」彼は冷たく笑った。 あるいは、本当のゲームは、始まったばかりなのかもしれない。
転生先は、不自由な夫の溺愛妻
憑依先の肉体の持ち主は、実の祖母によって、わずかな五銖銭(ごしゅせん)で身体の不自由な男性へと売り渡されてしまった。その絶望から入水自殺を図った乙女の身体に、時空を超えた謝思思(シェ・スースー)嬢の魂が宿ることとなる。この世界において、両親は既に他界しており、残されたのは一人の妹と、栄養失調で骨と皮ばかりに痩せ細った二人の弟たちだけであった。謝思思は、幼い弟妹たちを守り、共に生き抜かなければならない。かつてこの身体が扱われたように、非道な悪人たちによって彼らが売り飛ばされてしまうことのないように。
命令通り、他人を誘惑しました
あの日、記憶を失った私をあの人が拾ってくれ、それから7年間、蝶よ花よと可愛がられた。 誰もが私を、沪城の太子様の弱点であり、触れてはならない存在だと言った。 周りの人々は、彼がもうすぐ私と結婚すると噂していた。 少し前、彼が国外でダイヤをあしらったドレスをあつらえているところを、写真に撮られていた。 あの日、薬を盛られた酒を半分飲んだ私は、意識が混濁していった。 そんな中、彼の声が耳元をかすめた。 「頃合いを見て、この女をあの男のベッドへ送り込め。あの男が私に手を出さずにいられるものか」 「薬はたっぷり使え。私が直々に仕込んだ女だ、あの男には勿体ないくらいだ」 誰かが小声で尋ねる。「……よろしいのですか? 彼女は、あれほど長くあなた様にお仕えしてきたというのに」 「あの女に、あの男も決して聖人君子などではないと見せつけられるなら、私のような女が10人いようと惜しくない」 私はふと思い出した。あの日、彼がなぜ私を拾ったのかを。
