九条光の小説・書籍全集
 命令通り、他人を誘惑しました
あの日、記憶を失った私をあの人が拾ってくれ、それから7年間、蝶よ花よと可愛がられた。 誰もが私を、沪城の太子様の弱点であり、触れてはならない存在だと言った。 周りの人々は、彼がもうすぐ私と結婚すると噂していた。 少し前、彼が国外でダイヤをあしらったドレスをあつらえているところを、写真に撮られていた。 あの日、薬を盛られた酒を半分飲んだ私は、意識が混濁していった。 そんな中、彼の声が耳元をかすめた。 「頃合いを見て、この女をあの男のベッドへ送り込め。あの男が私に手を出さずにいられるものか」 「薬はたっぷり使え。私が直々に仕込んだ女だ、あの男には勿体ないくらいだ」 誰かが小声で尋ねる。「……よろしいのですか? 彼女は、あれほど長くあなた様にお仕えしてきたというのに」 「あの女に、あの男も決して聖人君子などではないと見せつけられるなら、私のような女が10人いようと惜しくない」 私はふと思い出した。あの日、彼がなぜ私を拾ったのかを。
