夕霧荘一の小説・書籍全集
彼女の復讐、彼の破滅
息子は死んだ。公式な報告書では自殺、薬物の過剰摂取とされていた。でも、それが嘘だと私にはわかっていた。私は鑑識官。息子の遺体を、この手で検分したのだ。証拠は、殺人を叫んでいた。 七度、再審を請求した。そのたびに、反論の余地のない証拠を突きつけた。そのたびに、榊宗一郎検事正は私の目の前で扉を閉ざし、私の悲嘆を妄想だと切り捨てた。私が二十年間仕えてきた組織は、殺人犯を庇っていた。 だから、私は法をこの手に取った。 検事正の娘、榊麗を誘拐し、私の要求を世界に配信した。彼が無駄にした一度の機会ごとに、私は彼女に鑑識道具を使い、その体に永遠の傷を刻みつける。 世界は戦慄しながら見守った。私が彼女の腕にステープラーを打ち込み、焼きごてを当て、メスで細い赤い線を引くのを。 かつての恩師である穂村教授と、息子の恋人だった亜希が、私を説得するために送り込まれた。息子が鬱病だったと語り、偽りの遺書を提示するために。一瞬、私は揺らいだ。「悪い母親」だったのかもしれないという痛みが、私を押し潰した。 だが、その時、見てしまったのだ。彼の「遺書」に隠されたメッセージを。幼い頃に大好きだった絵本の、秘密の暗号を。彼は諦めたのではなかった。助けを求めていたのだ。奴らは、彼の悲痛な叫びを嘘に塗り替えた。 私の悲しみは燃え尽き、決して揺らぐことのない決意に変わった。 「この遺書は、認めない」 神奈川県警の特殊部隊が突入してくる中、私はそう宣言し、麗の脚に焼灼ペンを押し当てた。
恋人に裏切られ、結ばれたのは義弟でした
視力を取り戻した瞬間、私が結婚した相手が、実は恋人の弟だったと知った。 そして「本命とはきっぱり別れる」と約束した恋人は、実際にはずっと隣の部屋で彼女と過ごしていた。 その夜、私はふたりの会話を耳にした。 弟は眉をひそめて言った。「兄さん、彼女はあんたのせいで目が見えなくなったんだぞ。本当にこれでいいのか!」 兄はうんざりしたように返す。「あと1か月待て。彼女の世話が終わったら、必ず戻るから」 「もう10年だ。俺が本当に彼女を好きになったらどうする?」 「お前たちはただの偽装結婚だ。その気持ちは抑えろ!」 私は静かにベッドに横たわり、誰にも告げなかった。――自分の視力が戻ったことを。 そして29日目、弟の手を引き、婚姻届を提出した。 正直なところ、この「弟嫁」という立場を、もう少し楽しみたかったのかもしれない。
