月光のささやきの小説・書籍全集
夫が私を口説いている。
結婚して二年。彼女と「夫」が初めて顔を合わせたのは、ベッドの上だった。 彼女は相手が誰か気づいたが、夫のほうは妻の顔をまったく知らなかったのだ。 彼から離婚を切り出し、彼女にも彼に縋るつもりなど毛頭なかった。だが誰が予想しただろうか、二人の縁がこれほど深く、泥沼のように絡み合うことになろうとは。 昨今、界隈の大物である「彼」が帰国し、ある一人の女性弁護士に興味を抱いているという噂が流れていた。 その女性弁護士は美しく艶やかで、言い寄る男も後を絶たない。今まさに壁際へと追い詰められた彼女は、男の胸を指先で軽くつつき、こう言った。「私には夫がいますので」 彼は言葉を失った。「……」 その後、二人が離婚してからのこと。彼女は元夫のことを堂々と口にし、微笑んでこう言ったのだ。「私の元夫?名前はあなたと同じよ」
灰燼より不死鳥:愛の再生
爆発する数秒前、大破した車から婚約者を引っ張り出した。 その火事で私の背中は見るも無惨な傷痕に覆われたけれど、彼の命は救えた。 彼が昏睡状態にあった四年間、私はすべてを投げ打って彼の介護に尽くした。 彼が目覚めて半年後、復帰会見のステージに彼は立っていた。 私に感謝を述べるはずだった。 なのに彼は、観客席で微笑む幼馴染のエステルに、壮大でロマンチックな愛の告白をしたのだ。 それから、彼の一族とエステルは私の人生を生き地獄に変えた。 パーティーで辱められ、ドレスを引き裂かれて傷痕を晒された。 エステルが雇ったチンピラに路地裏で暴行されたとき、隼人は「注目を集めたいだけの狂言だ」と私を罵った。 私が傷だらけで病院のベッドに横たわっている間、彼は「怖い」と怯えるエステルの元へ駆けつけた。 彼が彼女に愛を告げ、婚約者である私のことなど「どうでもいい」と語るのを、私は聞いてしまった。 私の犠牲も、痛みも、揺るぎない愛も――すべてが無意味だった。 彼にとって私は、憐れみから返済すべきただの「負債」でしかなかったのだ。 そして結婚式当日。 エステルが腹痛のふりをしたせいで、彼は私をリムジンから蹴り出し、ウェディングドレス姿のまま高速道路の路肩に置き去りにした。 彼を乗せた車が消えていくのを見送る。 それから私は、タクシーを拾った。 「空港まで。それと、飛ばしてください」
