神楽坂友の小説・書籍全集
私の40年を、今日捨てます。
60歳の誕生祝いの宴席で、私が挨拶を終えると、いつもは無愛想な夫が突然泣き出しました。 続いて息子、息子の嫁、孫までも。 全員が立ち上がり、目に涙を浮かべて私の方へ歩いてきます。 突然の感動的な展開に、私は少々うろたえました。 私は手の汗を拭い、抱きしめようと両手を高く上げました。 しかし、夫は私とすれ違いました。 続いて息子、息子の嫁、孫までも。 夫は私の後ろにいた人物の手を握り、震えが止まらない様子です。 息子は泣きながら「おばさま」と叫んでいます。 息子の嫁と孫は、積もる話をしようと張り切っています。 私は心血を注ぎ、愛をもってこの家を40年間切り盛りしてきました。 しかし、帰ってきた本命の前で、完膚なきまでに打ちのめされたのです。 その女性はアルツハイマー病を患い、記憶が18歳に戻ってしまったのでした。 彼女は目を丸くして、私が誰かと尋ねました。 家族全員がまるで強敵を前にしたかのような様子を見て、私は笑いました。 「所詮は他人ですよ」
