鳴海奏の小説・書籍全集
愛なき政略結婚、冷酷な夫を見限ります
結婚三周年の記念日、冷え切ったディナーを前にしていた私に、義妹から一枚の写真が届いた。 そこに写っていたのは、夫が初恋の女と、彼にそっくりな男の子の誕生日を祝う、幸せそうな「家族」の姿だった。 深夜に帰宅した夫からは甘い香水の匂いがし、彼は私に一枚のブラックカードを投げつけて機嫌を取ろうとした。 彼を問い詰めようと後を追って病院へ向かうと、彼はあの女を優しく抱きしめていた。 その女の腕には、彼が私への「埋め合わせ」として贈ったものと全く同じ、数千万円のブレスレットが光っていた。 実家を救うための政略結婚。 私はヴァイオリンを辞め、三年もの間、全てを捧げて尽くしてきた。 なのに、私は彼にとって、ただの都合のいい家政婦であり、あの女の代用品でしかなかったのだ。 彼に突き飛ばされて気を失い、病院のベッドで目覚めた時、やはり彼の姿はなかった。 「あの子には、私が厳しく言っておきます」 姑が鷹司家の権力で彼を連れ戻そうとするのを、私は静かに制止した。 「もう、結構です」 私はバッグの奥に忍ばせた離婚届を思い浮かべ、この冷たい鳥籠から抜け出すことを決意した。
愛し合った一生の果てに
2人は生涯を通じて愛し合ってきた。 彼女が死に際にあるとき、夫はその手を握り、涙を止められずにいた。 彼女は、それが愛する人からの最後の告白になると思った。 ところが、彼の口から洩れたのはため息まじりの言葉だった。 「……この人生で君の夫でいるのは、あまりにも疲れた。ただあの漁村で、名もないひとりの漁師として、あの人と一緒にいたかった」 その瞬間、彼女は呼吸の仕方を忘れるほどの衝撃を受けた。 彼が口にした「あの人」とは、数年前、漁村で彼を拾い上げた女だった。彼女は「自分こそが妻だ」と偽り、記憶を失った彼を隠し、夫婦のように暮らしていたのだ。 やがて妻が彼を見つけ出したとき、貧しさの中で過ごした彼はすべてを思い出し、その女を一瞥すらせず、妻と共に家へ戻った。 盛大な結婚式を挙げ、永遠を誓い合ったはずだった。 だが今、彼女が命の灯を落とそうとしているこのとき――夫は「後悔している」と告げたのだった。
