アルファであるデニスの誕生パーティで、彼は一人の女を連れて帰ってきた。
かつて彼を捨てた、元メイトの女を。
彼は世界のすべてを私に捧げる一方で、彼女を狂おしいほどに痛めつけ、ついには水牢へと放り込んだ。
けれど、契りの記念日である今日、私は見てしまった。
彼が部屋でヴァージニアを抱き、マーキングしているところを。
「まさかまた私の手の中に落ちるなんて思わなかったでしょ? あなたのルナに見つかったらどうするの?」
「これは罰だ。お前を罰しているにすぎない」
ヴァージニアは軽やかに笑うと、ドアの外に佇む私に視線を向けた。
「自分のアルファが私と寝てるのを見る気分はどう?」
声には出さず、唇の動きだけでそう告げてくる。
そして得意げに片手を持ち上げてみせた。
その手には、私と同じ結婚指輪が嵌められている。
その瞬間、私の中の狼が再び苦痛に呻いた。
耐え難い痛みが全身を駆け巡る。
「ヴァージニア、誰と話している?」
……
「愛しいアルファ、あなたが罰してくださっているのに、どうして私が他のことに気を取られたりするでしょう?」
ヴァージニアは笑ってデニスの首に腕を回した。
「すごく気持ちいいわ、アルファ。あなたの部屋中に、私の匂いを残してあげる」
一瞬動きを止めたデニスだったが、すぐに前にも増して激しく腰を突き上げ始めた。
「俺は罰を与えているんだぞ、何を考えている!」
「発情した雌犬みたいで反吐が出る!」
「俺のルナに謝れ!」
ヴァージニアは再び私に視線を送り、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ええ、もちろん!ごめんなさいね、ルナ。あなたのアルファと寝るべきじゃなかったわ」
「でも、あなたのアルファは本当にすごいの。最高に気持ちいい!」
私は思わず二、三歩後ずさった。体の中で痛みが爆ぜ、その場に崩れ落ちる。
三年前、デニスと契りを交わして以来、私の中の狼は意思疎通を拒み、ただ苦しげに呻くだけになった。
そして私の身体もまた、四六時中、激しい痛みに苛まれ続けていた。
私が痛みに泣き崩れると、デニスはひどく心を痛めた。
数ヶ月後、彼は魔女に調合させたという薬を持ってきた。これを飲めば楽になる、と。
この三年間、私はその薬に頼ることで、かろうじて穏やかな生活を送れていた。
しかし、今日は私たちの契りの記念日。
彼を驚かせたくて、その準備に夢中になるあまり、薬を飲み忘れていたのだ。
まさか、こんな光景を目にすることになるなんて。
狼が呻き、身体が痛むのは、警告だったのだ。
私のアルファが、裏切っているのだと。
私は耐え難い痛みを引きずりながら、デニスから渡された薬を持って病院へ向かった。
目の前の医師は、憐れむような目で私を見つめている。
「これは……魂の繋がりを遮断する薬です」
「これを飲めば、あなたの中の狼はアルファの裏切りを感知できなくなる」
「身体の痛みも感じなくなるでしょう」
そういうことだったのか。
乾いた笑いがこみ上げた。
「つまり……私が毎日感じていた痛みは、私のアルファが毎日愛人と体を重ねていたから、ということですか?」
医師は眉をひそめ、重々しく口を開いた。
「……その通りです」
彼は一瞬ためらった後、さらに続けた。
「それに……あなたの中の狼は傷ついているわけではない」
「何者かによって……呪いをかけられているのです」
呪い。
デニスは、己の裏切りを隠すためだけに、私に呪いをかけたというのか!
私は椅子に座ったまま、虚空を見つめた。
(どうして、こんな仕打ちを……)
私はデニスにとって二人目のメイトだ。
彼がヴァージニアとの契りの儀式で捨てられたその場で、月の女神によって選ばれたのが私だった。
壇上で茫然と立ち尽くす彼に、私は歩み寄り、手を差し伸べた。
「月の女神が私を選んだのなら、私と番になってほしい」
後にデニスは言った。「君は俺の救いだ」と。
そして、心から私を愛していると囁いた。
結婚後、デニスの友人たちは決まって、あの逃げ出したメイトの話を私の前でした。
聞けば彼女は、結婚式の当日に別の強大な群れへ走り、そこのアルファと契りを交わしたらしい。
デニスには、こんな言葉を残して。
「群れで最も弱いアルファが、どうして私に相応しいと思うの?」
その言葉が、デニスを変えた。
私と契りを交わした瞬間、彼は「キング・オブ・ライカン」へと覚醒したのだ。
「君はいつも俺に幸運を運んでくれる、ジョアンナ」
誰もが、デニスは私に夢中だと言った。私自身もそう信じていた。
だが、その幸せは長くは続かなかった。
数ヶ月後のデニスの誕生パーティで、彼は一人のオメガを連れて帰ってきたのだ。
「奴らの群れを乗っ取った。俺への誕生日プレゼントだ!」
「こいつは契りの儀式で俺を捨てた女だ。そいつのアルファは、この手で殺してやった!」
「さあ、狂宴の始まりだ!」
その言葉を合図に、出席者たちが一斉に動き出す。
ヴァージニアの白いドレスは瞬く間に酒で汚され、服は引き裂かれていった。
だがその瞬間、デニスは彼女を腕の中に抱き寄せた。
「こいつは今日から俺の奴隷だ。水牢へぶち込んでおけ!」
デニスは私と体を重ねるたび、どれほどヴァージニアを憎んでいるかを語った。
けれど、彼の瞳の奥に、ヴァージニアへの未練と愛が揺らめいていることに、私は気づいていた。
彼はまだ、彼女を愛しているのだ。
それを認めようとはしなかったが。
それからというもの、彼は常軌を逸したやり方でヴァージニアをいたぶり続けた。
私たちが体を重ねている傍らで、跪いて私の足を舐めさせたり。
ならず者の狼たちに犯させながら、部屋の掃除をさせたり。
私が妊娠していた時には、ヴァージニアに手ずから私の衣服を洗わせたりもした。
ヴァージニアが抵抗するたびに、デニスはそれを口実に彼女を小部屋へ引きずり込み、激しく「罰」を与えた。
部屋からは、ヴァージニアの悲鳴が漏れ聞こえてきた。
だが少し前、二人が揉み合っているうちに、不意に私を階段から突き落としてしまった。
待ち望んでいた我が子が、私の中から消えてしまったのだ。
しかし、デニスは私を慰めるどころか、半裸に近いヴァージニアを引きずってまた小部屋へと消えた。
そして戻ってくると、ただ一言だけ言い放った。
「お前のために、罰は与えておいた」
私は彼の背中を見つめながら、静かに服の裾を握りしめた。
薬を飲んでいたせいで、身体の痛みはまったく感じなかった。
それでも、何かがおかしいという感覚は拭えなかった。
流産の後、もう一度子供が欲しいとデニスにせがんだが、彼はそのたびに私を拒んだ。
「君の身体はまだ不安定だ。妊娠は大きな負担になる」
けれど、本当は彼も子供を望んでいることを、私は知っていた。
彼の服から、ヴァージニアの写真を見つけてしまったからだ。
写真の裏には、こう書かれていた。――あなたとの子が欲しい。
——
かつての私は、デニスの行いはすべてヴァージニアへの復讐なのだと、自分に言い聞かせ続けてきた。
しかし今、残酷な真実を認めざるを得ない。
デニスは、今もヴァージニアを愛しているのだ。
そして、その裏切りを続けるために、私の中の狼に呪いをかけたのだ。