「ママ、あつい」
娘の美晴がぐずり、静の喪服の裾を引いた。静は身を屈め、小さな額にそっと手を当てる。熱い。じっとりとした汗が手のひらに伝わってきた。
重たい黒の喪服が背中に張り付く。息が詰まるような暑さだった。
今日は、鷹司家の長男である鷹司智明の葬儀だった。ヘリコプターの事故による突然の死だった。公式の調査報告書は機械的な故障を原因としていたが、静はかつて智明が、暴力団と繋がりのある競合他社について冗談めかして話していたことを思い出していた。あの時は軽く聞き流していたが、今となってはその記憶が肌の下に刺さった棘のように感じられた。
静は娘を抱き上げた。弔問客でごった返す人波を縫って進む。遠縁の親族たちが投げる品定めするような視線が肌に突き刺さる。静は俯き、足早にその場を離れた。
「鷹司夫人、心よりお悔やみ申し上げます」
佐藤健一が差し出した手を、静は完璧なバランスの温かみと抑制をもって受け取った。指先が彼の手のひらに触れるか触れないかのうちに、すぐに引き戻す。黒のトム・フォードのドレスが肩に張り付き、シルクの重みと高級感が肌に伝わってくる。
「ありがとうございます、佐藤様。智明は本当に素晴らしい方でした」
佐藤健一の視線は静の顔に少し長く留まり、次にバーの方へ滑り、また彼女に戻ってきた。
「実に素晴らしい方でした。」
静の微笑みは揺るがない。「失礼します。ケータリングの最終確認をしなければなりませんので」
彼が何か言う前に、静は振り返った。ヒールが軽井沢の別荘の大理石の床にカツカツと響く。鷹司智明の葬儀には、東京の名だたる名士たち三百人が参列していた。その全員が、喪の黒に身を包んだそれぞれの思惑を持ってやってきていた。
静は群衆の中を、刃が水を裂くように進む。ある参議院議員の夫人からの哀悼の言葉を受け止め、財団の新プロジェクトに関する質問を巧みにかわし、智明の学生時代の思い出話に優しく微笑んだ。すべてのやりとりは計算され、精緻で、疲れ果てるものだった。
空気が欲しかった。庭の空気ではない。煙草の煙と囁かれる憶測で濁った空気ではない。本当の空気。孤独。
静は大階段へと滑り込み、手すりに手を添えながら上がっていく。軽井沢別荘の二階は、こうした行事の際には立ち入り禁止区域だ。家族だけが許される場所。彼女はゆっくりと階段を上った。一階での演技に全身の筋肉が痛んでいた。
東の棟は静かだった。高い窓から差し込む午後の光の中を埃が舞っている。彼女は閉じられた扉の前を通り過ぎる。客室、智明の子供時代の部屋、彼の娘がかつて眠っていた。そして、廊下の突き当たりにある重厚な樫の扉の前にたどり着いた。
智明の書斎。彼はそこを「聖域」と呼んでいた。革と古書の匂い、そして本物の思考が宿る部屋特有の静けさ。静はここで何時間も彼と過ごした。階下で暁がビジネスを仕切っている間、詩について語り合ったものだ。
彼女は携帯電話を取り出し、井上文子に新しい出発予定時刻を知らせるメッセージを送ろうとした、その時だった。
書斎の中から声が聞こえた。
「……こんなふうに会い続けるわけにはいかないわ」
西園寺絢子の声。智明の未亡人。静の義理の姉で四年になる。
静の手が凍りついた。立ち去るべきだ。絢子がどんな個人的な悲しみに直面しているにせよ、静が立ち入る場所ではない。
すると、暁の声が聞こえた。
「他に選択肢はない。少なくとも……」
「暁さん、私、怖いの」絢子の声は低くなり、親密で震えていた。「もし千代様にばれたらどうするの? 私、鷹司家から追い出されるわ。お義母様がスキャンダルをどう思っているか、あなたも知っているでしょう」
「大丈夫だ」暁の声は確固としており、自信に満ちていた。取締役会で議論を終わらせたい時に使う声だった。「智明が死んだばかりだ。誰も君に手を出せない。それに、我々の計画こそが重要なんだ」
静の呼吸が止まった。計画?
「一度、胎児の親子鑑定でこの子が鷹司家の後継者だと確認されれば」絢子は続けた。その声は今や落ち着き、ほとんど計算高的にさえ聞こえた。「すべてが変わるわ。智明の信託、取締役の議席、議決権付き株式。すべてこの子を通じて流れ込む。私たちの未来は確保されるの」
赤ちゃん。その言葉は静の胸を物理的な打撃のように打った。彼女は額縁を握りしめ、その指の関節が暗い木の表面で白くなった。
「そうだ」暁が言った。「一人の後継者。それが我々に必要な切り札だ。智明の信託は、直系の子孫がいなければ世代を飛ばすように組まれている。絢子、この子があれば、我々がすべてを掌握できる」
静の胃がひっくり返った。彼女は自由な手を口に当て、喉の奥から込み上げる吐き気を味わった。
扉の隙間から、動きが見えた。影が揺れる。布地の擦れる音。そして音。キス。柔らかく、長く、紛れもないもの。
再び暁の声。今度は低く、親密で、静の肌が総毛立つような響きだった。「自分の葬儀で悲しむ未亡人を演じさせてすまない。つらいだろう」
「私たちの未来のためなら、何だってするわ」絢子の笑い声は軽く、ほとんど遊び心があった。「でも静さん……あの人は鋭いわ。何か気づいたらどうするの?」
暁は鼻を鳴らすような音を立てた。取るに足らないものと切り捨てるように。「奥寺博士は自分のラボと特許にしか関心がない。家族の政治や感情の機微。彼女はデータには天才的だが、人には鈍感だ」彼は間を置いた。「完璧な妻だ。美しく、教養があり、まったく無害だ」
無害。その言葉は刃のように正確で冷たく、静の体に突き刺さった。データの異常を処理するために訓練された彼女の脳は、新たな入力を分析し始めた。入力:七年間の結婚生活、一人の娘、共有された未来。出力:計算されたビジネスの取り決め。変数「愛」:なし。結論:彼女の人生のモデル全体に欠陥があり、破損したデータの上に構築されていた。スクラップにして再構築する必要があった。
彼女はまだそこに立ち、まだ息をしていた。その時、ドアノブが回った。
静は考える間もなく身を動かし、扉の横の壁龕に身を投げ込んだ。分厚いベルベットのカーテンが彼女を飲み込んだ。布地は埃と古い金持ちの匂いで重かった。彼女の親指は、携帯電話のキーパッドの上で空中に浮いたまま、無意識にサイドボタンを押した。かすかな電子音と共に画面がロックされ、音声を録音していたのか、それともホーム画面のスクリーンショットを撮っただけなのか、自分でもわからなかった。彼女は壁に背中を押し付け、心臓が激しく打つのを感じた。彼らに聞こえるのではないかと確信するほどに。
足音。二組。
彼らは彼女の隠れ場所から数センチのところを通り過ぎた。静はカーテンの隙間から、暁の手が絢子の腰のくびれに置かれ、彼女を階段へと導くのを見た。二人の顔は変貌していた。暁は喪に服す厳しい表情に、絢子は完璧に計算された悲しみで青ざめ、やつれた表情に。
彼らは、嘆き悲しむ義姉を慰める献身的な義弟のように見えた。彼らはまったく何の関係もないように見えた。
静はその足音が消えた後も、長い間暗闇の中に立っていた。足が震えた。手は氷のように冷たい。彼女は呼吸を数え、それが落ち着くまで数え、そしてもう一度数えた。
ようやくカーテンの後ろから姿を現した時、彼女の顔は無表情だった。急ぐことなく、振り返らずに、彼女は二階のテラスへと歩いていった。十月の風が彼女のドレスを捕らえ、シルクを旗のように脚に打ち付けた。
彼女は携帯電話を取り出した。
画面に写真が映った。昨夏のワイナリー旅行での暁と静と美晴。三人がカメラに向かって笑い、美晴が二人の腕に抱えられて宙に浮いている。完璧な家族。完璧な嘘。
静の親指が画像の上で止まった。そして彼女は削除を押した。写真は消えた。画面は暗くなった。
彼女は連絡先から井上文子の番号を見つけた。家政婦は二コール目で出た。
「奥様?」
「文子」静の声は落ち着いており、ほとんど快活ですらあった。「車を勝手口に回して。すぐに出発する必要があるの」
返事を待たず、彼女は通話を切った。そして手すりに立ち、手入れの行き届いた庭園を見渡した。そこでは三百人の弔問客が引き続きシャンパンを飲み、株価について議論し、死に何か意味があるかのように振る舞っていた。
風が冷たく彼女の顔を打った。静はそれを感じなかった。