桐谷冬夜の小説・書籍全集
画家の復讐 ― 愛の再生
これは、私にとって三度目の結婚式。そう、なるはずだった。 純白のドレスは、まるで何度も繰り返し演じさせられる悲劇の舞台衣装のよう。 隣には婚約者の桐谷宗佑(きりたにそうすけ)が立っている。 けれど、彼の手は私の「か弱い」友人、藤堂詩織(とうどうしおり)の腕を固く握りしめていた。 突然、宗佑が詩織を連れて祭壇から離れていく。 招待客の前から、そして私の前から。 でも、今回は違った。 彼は戻ってきて、私を無理やり車に押し込み、人里離れた山中の空き地へと連れ去った。 そこで私を木に縛り付けると、さっきまでの青白い顔はどこへやら、詩織が私に平手打ちを食らわせた。 そして、私を守ると誓った男、宗佑が、詩織を動揺させた罰だと言って、私を何度も、何度も、殴りつけた。 土砂降りの雨の中、血を流し、独りきりで木に縛られたまま放置された。 こんなことは初めてじゃない。 一年前の結婚式では、詩織が私に殴りかかってきた。宗佑は血を流す私を放置して、彼女を抱きしめた。 その半年後、彼女は「誤って」私と親友に熱湯を浴びせかけた。宗佑は詩織をなだめるため、親友の手首を折り、私の絵描きの生命線である右手を破壊した。 私のキャリアは終わった。 森の中に置き去りにされ、震えが止まらない。意識が遠のいていく。 だめ。ここで死ぬわけにはいかない。 私は唇を強く噛みしめ、必死に意識を保とうとした。 両親のこと。父が守ってきた会社のこと。 それだけが、私をこの世に繋ぎとめる唯一の鎖だった。 次に目覚めた時、私は病院のベッドにいた。傍らには母が付き添ってくれている。 喉は焼けつくように痛んだけれど、電話をかけなければならなかった。 ずっと昔に暗記した国際番号をダイヤルする。 「望月紗奈(もちづきさな)です」私はかすれた声で言った。 「ええ、結婚の件、お受けします。私の家が持つ全資産を、保護のためにあなた方の口座へ。そして、私たちを国外へ逃がしてください」
捨てられ妻、敵の将に奪われて
敵対する部族のアルファに囚われたその時。 彼はちょうど運命の番と日の出を眺めていた。 誘拐の報せを受けた彼は、淡々とした声で言い放つ。「縛っておけ。少し痛い目を見れば、もう俺に縋りつくこともなくなるだろう」 生死の瀬戸際、選択肢は残されていなかった。 私は敵対部族のアルファに縋りつき、震える声で囁く。「お願い……殺さないで。なんでも言うとおりにするから」 ようやく彼が私を思い出した時には――敵方のアルファが眠り込んだ私の横顔を見下ろし、笑みを浮かべていた。「遅かったな。今の彼女は、とてもお前について行ける状態じゃない」
