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清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています

清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています

5.0

三年の結婚生活。清水瑠衣は、愛さえあればあの氷のような男の心も溶かせると思っていた。 土砂降りの夜。死に物狂いで撮影したユキヒョウの写真が、あっという間に、立川蒼空が新しい愛人を写真界の頂点に押し上げるための踏み台と化した。 彼が女の腰を抱きながら表彰台に上がる瞬間、彼女はアフリカの病院で死神とすれ違っていた。 心が凍りつき、離婚届だけを残して立ち去る。己の手で、真の栄光を取り戻すと誓ったのだ。 セレンゲティでカメラを構えた時、突如として現れたのは――元夫の宿敵で、資本帝国を掌握する男。極東グループを背に、彼女の前に姿を現した。 「清水さん、お前に情けをかけに来たわけじゃない」 彼は歩みを詰め、オフロード車と自身の胸の間に彼女を閉じ込める。独占欲に濁った声で囁く。「才能ある人間を、そして――立川蒼空が手放した宝物を、愛おしく思うだけだ」 追い詰められ、逃げ場を失った時、瑠衣は初めて理解した。あの低く掠れた声が告げた真実を。「我が物にしたかったんだ。密かに――ずっと前から」 この想い、彼は三年間、密かに育てていたのだ。

目次

チャプター 1 離婚しましょう

清水瑠衣(しみず るい)は、手術の麻酔が解けていく中で、ゆっくりと意識を浮上させた。

重い瞼をかろうじて持ち上げると、視界の先、壁に掛けられたテレビから、野生動物写真コンテストの結果を告げるアナウンサーの声が静かに流れ込んでくる。

幾度となく死神の鎌をかいくぐり、ようやく掴んだ吉報。

その喜びに口元が緩みかけた、その刹那――瑠衣は息を呑んだ。

作品に添えられた署名。 そこに刻まれていたのは、夫である立川蒼空が心から愛する女――陸奥陽菜の名だったからだ。

全身の血の気が、すうっと引いていくのを感じた。

途絶えた返信。 途切れることのなかったゴシップの噂。 撮影に明け暮れたこの二ヶ月間の出来事が、点と線で繋がって脳裏を駆け巡る。

思考が追いつくより早く、枕元のスマートフォンが静寂を切り裂くようにけたたましく鳴った。

点滅する画面には、「旦那」の二文字。

高熱で意識が朦朧とする中、あれほどかけたのに、一度も繋がることのなかった番号だった。

瑠衣は震える指を伸ばし、通話ボタンに触れる。 乾ききった喉から絞り出した声は、自分のものではないように掠れていた。

「……どうして、私の作品が、陸奥陽菜の名前になっているの?」

受話器の向こうから聞こえたのは、その主を体現したかのように、氷のように冷たい声だった。 彼の、深い墨色の瞳に宿る、あの昏い光が脳裏をよぎる。

「あれは陽菜への、お前からの埋め合わせだ」

その一言が、瑠衣の心に突き刺さった。 「何度も説明したでしょう!あの時あなたを助けたのは、私なんだって!」

「俺は、自分の目で見たものしか信じない」

冷水を浴びせられたような衝撃。

瑠衣の唇の端に自嘲の笑みが浮かぶ。 胸にぽっかりと空いた穴から冷たい風が吹き込み、骨の髄まで凍てつかせるようだった。 瑠衣は一度、深く息を吸い込んだ。 そして、氷のような声で言い放つ。

「立川蒼空。 これは、私が命を削って撮った写真。 一枚一枚に、私の血が滲んでいるの。 それをあの女に渡すなんて、絶対に許さない」

蒼空の声には、あからさまな侮蔑が滲んでいた。 「お前の母親の医療費は、どうするつもりだ?」

あまりに脈絡のない言葉に、瑠衣はスマートフォンを握る手に無意識に力がこもり、白い指の関節が浮き出た。

言葉を出すのもやっとの状態で言った。「陸奥陽菜のために……そんなことで私を脅すの?」

蒼空はいらだちながら注意した。「忠告だ。 お前ごときに、俺に逆らう資格はない」

まるで心臓を直接握り潰されるような、鈍い痛みが胸を苛んだ。

陽菜が現れるまで、あれほど優しかった蒼空はどこへ消えてしまったのか。 あの温もりは、全て幻だったというのか。

不意に、瑠衣の唇から言葉が零れた。 「離婚しましょう」

蒼空の声が、一段と低くなる。 「清水瑠衣、お前の茶番に付き合う暇はない」

「違う、本気で……」

しかし、瑠衣の言葉は最後まで紡がれることなく、無機質な通話終了音が耳元で響いた。

切られたスマートフォンを握りしめ、瑠衣は必死に口角を引き上げようとした。 だが、その試みは虚しく、堪えきれなかった一筋の熱い雫が目尻を伝い、無力に握られた手の甲へと落ちた。

離婚してやる。

そして、私のすべてを奪ったあの女に、栄光など決して渡さない。

瑠衣は、医者の制止を振り切って退院手続きを済ませた。

自宅に戻るやいなや、陽菜が作品を盗用した証拠を一つ一つ整理していく。

これまで撮影地を飛び回った航空券の半券、膨大な数のネガフィルム。

それらは何より雄弁な証拠だった。

瑠衣はそれらをまとめ、すぐさまインターネット上に公開した。

投稿は、瞬く間に激しい波紋を呼んだ。

しかし、十分と経たずに全ての投稿は跡形もなく削除され、瑠衣のアカウントそのものが凍結されてしまった。

ウェブページに表示された「404」の無機質な文字を前に、瑠衣は知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。

蒼空が、あの女のために、自分を社会的に抹殺したのだ。

凍結されたアカウントの画面を睨みつけ、一瞬、頭の中が真っ白になる。

だが、すぐに理解が追いついた。 今日は陽菜が写真界で最も権威ある賞を受賞した、その祝賀会の日。 自分がその祝宴に水を差すことを、蒼空が見過ごすはずがなかった。

その瞬間、玄関の外で車のエンジン音が響き、ぴたりと止んだかと思うと、ドアが叩きつけられるように乱暴に開け放たれた。

振り返った瑠衣の視線の先に。

彼は無言のまま大股で歩み寄り、瑠衣の腕を骨が軋むほど強く掴んだ。

嵐のような威圧感が、小さな体を飲み込んでいく。

「俺の言ったことが、もう忘れたのか」

アシスタントからの連絡があと数分遅れていれば、世論は完全に燃え上がり、陽菜のキャリアは芽吹く前に潰されていた。

だが、瑠衣はその怒りを前にしても、もう怯まなかった。 「言ったはずよ。 私の血と汗の結晶を、あなたが勝手に他人へ渡すのを黙って見ているつもりはない、と!」

彼女が、初めて見せた剥き出しの反抗だった。

蒼空の目に、一瞬だけ戸惑いの色が浮かぶ。

いつも従順で、自分の顔色ばかりを窺っていた女が、なぜ突然牙を剥くのか。

瑠衣は掴まれた腕を振り払い、自ら袖を乱暴にたくし上げた。 そこに刻まれた、生々しい無数の傷跡と、消え残る注射の痕を彼の眼前に突きつける。

「これが見える!? この一枚を撮るために、 私がどれだけのものを犠牲にしてきたか!」

「立川蒼空!あなたと対等な愛を望んだことなんて一度もない!でも、人としての最低限の尊重くらい、したっていいでしょう!」

溜めに溜め込んだ激情が、堰を切ったように迸る。

瑠衣の目尻は赤く染まっていたが、そこに涙はなかった。 ただ、燃え盛る怒りの炎だけが宿っていた。

蒼空の眼差しが、さらに険しさを増す。 彼は瑠衣を静かに見つめ、やがてその瞳に嘲りを浮かべた。 「全てお前が招いたことだろう。 嘘で始まった結婚に、何を期待していた?」

その言葉は、瑠衣の最後の強がりを打ち砕いた。 全身から、ふっと力が抜けていく。

瑠衣は力なく目を閉じた。 「……もう好きに言えばいい。 私の望みは一つだけ。 離婚よ」

蒼空は、そんな彼女を見下ろし、嘲笑うように言った。

「本気か?」

瑠衣の両手は、知らぬ間に固く握りしめられ、鋭い爪が掌に深く食い込んでいた。

実家が破産した時、自分を救ってくれたのは蒼空だった。 母の高額な医療費を肩代わりしてくれたのも、彼だ。

その事実が、瑠衣の愛に「感謝」という名の鎖を繋いでいた。

だからこそ、この数年間、どんな理不尽な仕打ちにも耐えてきたのだ。

だが、命そのものである作品まで差し出せというのは、あまりにも酷すぎる。

蒼空は瑠衣を冷ややかに見下ろしたまま、スマートフォンを取り出すと、無慈悲に言い放った。 『――ああ、俺だ。 清水瑠衣の母親の件、全ての医療行為を停止しろ』

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更新: チャプター 69 奇策   昨日10:32
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