七夕の日、彼氏とロマンチックなディナーを約束していた祝賀ディナーが、またも唐蘇(とうそ)の案件記録のミスのせいで、法律事務所に戻っての残業に変わった。
私は会議室の隅に座り、窮屈なドレスを着たまま、指先が冷たくなるのを感じていた。
傅景深(ふけいしん)が案件記録を閉じ、低く落ち着いた声で言った。
「君はこれまで何度も勝訴してきた。 でも唐蘇は刑事案件は初めてなんだ。 もう少し大目に見てやれよ。 」
私は返事をしなかった。
ドレスがきつくて息苦しく、腰のあたりはファスナーに擦れて痛みが増していた。
立ち上がり、彼に温かい水を頼もうとした瞬間、彼は既に唐蘇を連れて資料室へ向かっていた。
スマホを開くと、ちょうど唐蘇が投稿したばかりのSNSが目に入った。
「傅大弁護士が直接案件記録を整理してくださったなんて、本当に幸運です!」
写真には、 彼女がミルクティーを手にして微笑む姿が写っている。 隣には傅景深が立ち、 彼女のミスした法条を指差しながら、
一つひとつ丁寧に説明している様子だった。
あの大きな手が、彼女の間違いを優しく指摘する姿を見て、私の腰の痛みは肌に火がついたように感じた。
このドレスは、彼が私に勝訴祝いとして贈ってくれたものだ。
Sサイズ。 私には窮屈で息が詰まりそうなサイズだが、唐蘇にはぴったり合うサイズだった。
大学時代、教授が言った言葉をふと思い出した。
「立場が間違っている弁護は、どれだけ努力しても勝てない。」
だから私は窮屈なドレスを脱ぎ、上海への転勤申請を提出した。
そして決めたのだ。 傅景深という人も、もう手放すことを。
……
法律事務所のビルを出た時、スマホを開くと、また唐蘇のSNSが更新されていた。
彼女は傅景深の車の助手席に座っている。
手元には限定デザインの万年筆のギフトボックスが置かれていた。
投稿文にはこう書かれていた。 「初めての刑事案件が無事に終わってお祝い~傅弁護士からのご褒美、ありがとう!」
その万年筆は、先月の私の誕生日に、三度も欲しいと言ったものだった。
しかし傅景深は「派手すぎて実用的じゃない。 無駄遣いだ。 」と言って買ってくれなかった。
腰の擦り傷はまだ痛み、歩くたびに刺すような感覚が広がった。
タクシーを拾い、運転手がバックミラー越しに私をちらりと見た。
「お嬢さん、 パーティーの帰りですか? どうして一人で?」
私は答えず、商業地区の住所を伝えた。
法律事務所には一人で来たわけじゃない。
でも唐蘇がいると、私はいつも最後に置き去りにされてしまう気がする。
まるで彼らが本当の戦友で、
私はただの余計者のように。
商業地区に到着すると、私はいつも行く服屋に直行した。
体に合うベージュの通勤用スーツを選んだ。 Mサイズ。 肌にぴったりで快適だった。
店員が笑顔で尋ねた。
「沈弁護士、このドレスはお包みしますか?」
私は首を振り、手に持ったSサイズのサテンのドレスに目を落とした。
スワロフスキーの装飾がついた襟元、ウエストを絞ったデザイン――どれも私の好みではない。
でも受け取った時は、とても嬉しかった。
傅景深は私にプレゼントを贈ることはほとんどなく、
特別な日でさえも形式的なものは意味がないと言っていた。
今になって思う。
最初から、このドレスは私のためのものではなかったのだと、今さらながら気づいた。
私はそのドレスを商業施設の古着回収ボックスに投げ入れ、薬局へ向かった。
消毒液と絆創膏を買い、腰の擦り傷を処置した後、アパートに戻ったのは夜の8時だった。
玄関には、私のものではない女性用のフラットシューズが置かれていた。
リビングの暖かい黄色の灯りが漏れている。
唐蘇が私のカシミアブランケットを包まって、ソファでタブレットを抱えてドラマを見ていた。
傅景深はキッチンからお椀を持って出てきて、柔らかい声で言った。
「ゆっくり飲んで。 ナツメとショウガのお茶、30分煮込んだよ。 」
私を見つけると、彼の動きが一瞬止まり、眉を少しひそめた。
「どこ行ってたんだ?電話にも出ないで。 」
彼は私が買ったチェック柄のエプロンを身につけ、何事もなかったかのような平淡な声で話していた。
私がなぜ早く帰ったのかも、何かあったのかも聞かない。
私がすでに別の服に着替えていることにも気づいていなかった。
紅茶を置きながら、彼はさらりと説明した。
「唐蘇が低血糖で体調を崩していたため、少し休ませるために連れてきた。 」
茶卓の上には彼のノートパソコンが開かれていた。
画面には、彼が唐蘇のために整理した案件のタイムラインが表示されていた。
それには証拠の検証角度までびっしりと記されていた。
私は急に皮肉だと感じた。
私が同じような案件を担当した時、弁護のポイントを探すために三晩も徹夜した。
でも彼は一瞥しただけで、「自分の案件は自分でしっかりやれ」と言っただけだった。
「先輩、お帰りなさい。 」
唐蘇が甘い声で挨拶し、手首につけた銀のブレスレットを揺らして見せた。
「これ、景深さんがくれた正社員祝いのプレゼントです。 可愛いでしょ?」
「彼って本当に優しいんです。 私が事務所に入ってから、何でも面倒見てくれて。 」
彼女は指を折りながら数えた。
「裁判用の弁護文も直してくれるし、難しいお客さんの対応もしてくれるし、案件のミスも一緒に残業して直してくれるんです。 」
「そうそう、先週、彼が私にドレスも買ってくれたんです。 Sサイズの。 デザインがちょっと大人っぽすぎて断っちゃったんですけどね。 」
私の指先がぎゅっと緊張した。
胸の奥が何かに締め付けられたように痛みを感じた。
つまり、彼が勝訴祝いとして私にくれたドレスは、唐蘇が選り好みして残したものだったのだ。
私の喜びなんて、ただ人の不要品だっただけ。