夏目 遥の小説・書籍全集
裏切り者に二度目はない
今夜は、結婚十周年の記念日だった。 夫は、IT業界の若き帝王、桐山蓮。 彼はこの日のために、都内で最も格式高いホテルの最上階を貸し切って、盛大なパーティーを開いてくれた。 カメラの前で私を強く抱き寄せ、「愛してる」と囁く。 その舌の根も乾かぬうちに、彼は愛人の莉奈と、二人だけで作ったはずの隠語で、私の目の前でいちゃついてみせた。 仕事の緊急トラブルだと嘘をつき、パーティーを抜け出して彼女に会いに行った。 記念日に打ち上げた花火? あれは、彼女のためのものだった。 翌日、彼女は妊娠した姿で私たちの家に現れた。 窓から見ていると、彼の顔にゆっくりと笑みが広がっていくのが見えた。 その数時間後、彼女から送られてきたのは、彼がひざまずいてプロポーズしている写真だった。 彼はいつも言っていた。「君との子供はまだ考えられない」と。 十年間、私は完璧で、献身的な妻を演じてきた。 そして、彼の会社を倒産の危機から救ったセキュリティシステムを構築した、サイバーセキュリティの専門家でもあった。 彼はそのことを、すっかり忘れてしまったらしい。 計画通り、私が姿を消すために空港へ向かう車の中。 赤信号で止まると、隣には結婚式のために飾り付けられたロールスロイスが停まっていた。 中には、タキシード姿の蓮と、ウェディングドレスを着た莉奈がいた。 ガラス越しに視線が交錯する。彼の顔から、さっと血の気が引いた。 私はただ、スマホを窓から投げ捨て、運転手に「出して」と告げた。
前世の分まで、あなたを守る
海に沈んだ前世の悲劇を超えて、綾瀬美羽はもう誰にも媚びない。 今度の人生は、遠慮も我慢もお断り。音楽で女配役を蹴散らし、陰謀を華麗に打ち砕く。 唯一変わらぬのは、彼への想いだけ——「今度こそ、あなたを守り抜く」 そんな美羽に、彼はただ一言だけ返す。「——いいよ」 全てを知る彼女が挑む、華麗なる逆転ストーリー。
