彼らはドアを開け、部屋に入っていった。 レイチェルが浴室でシャワーを浴びている間、チャールズはルームサービスに食事を注文した。 レイチェルが浴室から出てきた時、ホテルのウェイターがワゴンから食事を出し、テーブルに並べている所だった。
「いい匂いがするわ」と彼女は微笑み、「ワインを開けようか?」と聞いた。
「いいよ」 チャールズは自制心のある男だ。 車の運転をする時は滅多に飲まなかったが、今夜は少しだけ付き合う事にした。 レイチェルは嬉しかった。
「飲んでみて」 レイチェルはチャールズのグラスにワインを注ぎ、わざと明かりを暗くした。 テーブルの上のろうそくの明かりが彼女の顔を照らしていた。 着ているバスローブは彼女の体を緩めに包んでおり、微かに秘部を晒していた。
レイチェルはチャールズが彼女のその魅力に惹きつけられないわけがないと確信していた。
「味はどう?」 レイチェルは素足を彼の足に擦り付けた。 彼女の笑顔はとても魅力的だった。
「美味しいよ」 レイチェルはチャールズの真面目腐った返事に失望した。
しかし、彼女はがっかりせずにワイングラスを片手にし、チャールズの前のテーブルに座った。 そうすると、チャールズは即座に彼女の意図を察した。
彼は少し眉をひそめた。
「チャールズ、私達もう… 2年も一緒に居るのよね?」 レイチェルはグラスの中でワインを渦巻かせながら、優しく聞いた。
「うーん」チャールズが単調に答えた。 何故か彼はオータムの事が気になっていたのだ。
昨夜の彼女も今のレイチェルのように、バスロープを着て自分の目の前に現れた。 彼女の繊細で色白の顔立ちは、魅力的だがでれついているレイチェルよりも惹かれるものがあった。
「はっきり言うと…」 レイチェルは立ち止まり、少し目を落とした。 彼女の長いまつげに光が当たり、彼女の顔全体に影を落としていた。
彼女の専攻は演劇だったので、どうすれば目の前の男を自分の美しさで魅惑できるかよく知っていた。 チャールズを誘惑するために、彼女は可能な限りのことをした。
「チャールズ、私は喜んで...」 彼女は頭を下げ、顔を赤らめた。 それは彼女が何を意味しているのか明白であった。
チャールズが何も言わないのを見て、レイチェルは大胆にもワイングラスを置き、彼の膝に座り、腕の中に身を沈めた。 そして、指で彼の胸を撫で回した。すると、チャールズは彼女の指を掴んだ。
「レイチェル、もういい…」 彼は眉をひそめた。
もし一緒にこのホテルの部屋にいるのがオータムだったら、彼女はどうしてもこんな大胆な行動はしないだろうとチャールズは思っていた。
「チャールズ、私、いいわよ」 レイチェルはあきらめるつもりはなかった。 こんなチャンスはあまりなかったので、彼女は簡単に諦めるつもりはなかった。 「チャールズ、あなたは私の為だけにこの数年間欲望を堪えてきたのよ。 本当に感謝しているわ。 でも、今、私は喜んで自分の愛している男と愛し合いたいの。 私は本気よ」
「駄目だ。 俺はここまでお前とそういうことをしたことはない。 今更そういうことをするわけがない。俺は既婚者だから。 しかし、レイチェル、お前をそんなに長くは待たせないので、信じてくれ」とチャールズが言った。
ホテルの部屋に居るにも関わらず、彼の思いはすでにクラウド広告会社に飛んでいった。
「チャールズ!」 レイチェルは少し動揺した。
今のような出来事は以前もあった。 そういうとき、チャールズはいつも彼女に対して辛抱強く話していた。しかし、今日の彼は違った。
彼は確かに変わった。
レイチェルはそのことに気がつき、落ち込んだ。
「レイチェル、今日はゆっくり休んで。 明日会いに行くぞ」チャールズはきっぱりと言った。
「いやよ。 行かせないわ」 レイチェルは背後からチャールズを包み込んだ。 チャールズは彼女の心地の良い香りを感じたが、彼女が欲しいとはもう思わなかった。
レイチェルはチャールズをしっかりと抱きしめた。 彼女は彼を失うだろうと強く感じていた。
しかし、彼女は彼をあきらめたくなかった。
そのため、彼女は彼に情熱的なキスをし始めた。 初めは彼女の行動に興味を示さなかったチャールズが、次第と彼女の唇に吸い付き、主導権を握った。
テーブルの側にいた彼らは、少しずつソファに移動していった。 レイチェルの体からバスローブが落ち、 彼女は、チャールズの情熱に喜び、そして、安心感を感じた。
彼女は手を伸ばし、急いでチャールズのシャツのボタンを外そうとしていた。 彼女が愛し合おうとし始めた時、チャールズが止まった。
「何… どうしたの?」 レイチェルの唇は少し腫れおり、目には涙があふれていた。 他の男だったらこの繊細で魅力的な女に惹かれるだろう。
「何でもない」 しかし、チャールズはレイチェルの額にキスをし、すぐに立ち上がり、 レイチェルに開けられたボタンを閉じ直し、服を整えた。 そして、「もう遅い。 早く寝た方がいい。 俺も帰らないと」と、レイチェルに言った。
「チャールズ? チャールズ!」 レイチェルがどれだけ彼を呼んでも、チャールズは無視し、むしろ早く歩き出したのだ。
レイチェルはすべての希望を失った。 彼女は彼と一緒にいるために色々な努力をした。 自尊心と面子すら賭けたのに、 チャールズはただ無情に彼女の元を去った。 彼は彼女のプライドを傷つけ、彼女を失望させた。
「チャールズ・ルー…」 と声を出さずに彼の名を呟いたレイチェルの面持ちは、恐ろしく見えた。
彼女は今日チャールズがしたことを許せなかった。 決して彼を平穏に過ごさせまいと決心していた。
それほど時間をかけないうちに、有名女性スターのレイチェルと、シャイニングカンパニー取締役のチャールズの恋愛関係はY市に広がって行くだろう。
このニュースが出回れば彼の妻は失望し、浮気者の夫の元を去るだろうとレイチェルは思っていた。
レイチェルはいつもチャールズの言うことを聞いていた。 しかし今、彼は別の女性と結婚したのだ。
今回は、以前のような愚かではないと彼女が決めた。
レイチェルはバスローブを着て、無表情で誰かに電話した。 「レオ、チャールズと私の写真を撮った? … わかったわ。じゃあ、頼むよ。 これをやり遂げたら夕食を奢るわ」
レイチェルは電話を切り、窓の外を見た。 寒い夜が彼女の気持ちを動かした。 彼女はひどく失望し、悲嘆していた。
彼女はあの「イボンヌ・グー」と向き合う時が来たと思い、チャールズの妻としてのアイデンティティを一時的に「貸した」だけである事を彼女に解らせたかった。
一方、オータムはオフィスで忙しくしており、 真夜中まで家に帰らなかった。 チャールズは書斎で彼女の帰りを待っており、オータムが帰宅した足音を聞いて安心した。
彼女は家に帰った後、目覚ましを20分早くセットした。そうすれば明日の朝は地下鉄で行く時間が十分ある。 しかし驚いたことに、彼女が朝階下に降りていった時には既にチャールズが起きていた。
「おはよう」 同じ家に住んで居るので当たり前の様に顔を合わせた。 オータムはチャールズに挨拶し、朝食をとるためにテーブルについた。
チャールズは感情を表さずに彼女を見た。 彼女の寝室の明かりは朝4時に消されたのに、彼女は早起きし、その上とても元気に見えた。 そんなに仕事が楽しいのか彼は不思議だった。
「仕事で忙しいんだよな?」 チャールズが「ルームメイト」の日常生活を心配する素振りを見せたのは初めてのことだった。
オータムは彼の言葉に驚き、軽く頷いた。 「ええ。 数日休んだから、仕事が積もり積もってるわ。 それに、私の上司が重要な仕事を受けたのよ。 だから最近は残業しないといけないの」
その重要な仕事というのがシャイニングカンパニーの件だと思い出した時、オータムは慎重に尋ねた。 「ルーさん、もしあなたの会社が年会パーティーを開催するとしたら、あなたはそのイベントはワインパーティーでやらないわよね?」
今日中に提出しないといけなかったので、遅くまで掛かって提案事項を書き上げていたのだった。 彼女は昨夜2時間程しか寝ていなかった。