「誤解しないでくれ。 レイチェルに何かあったから、助けに行っただけだ」 チャールズが説明した。
オータムはチャールズが言い訳をすると思わなかった。 彼女は恥ずかしそうに笑い、「別に説明する必要はないわ。 私達はただのパートナーだし。 私、あなたのプライベートに関して気にしてないわ。 ただ、パパラッチに捕まらないように気をつけて」
「解った」 オータムの真面目な様子はチャールズを苛つかせ、彼は突然食欲を無くした。 箸を置き、「満腹だ」と言った。
オータムは一瞬呆然とした。 彼はレイチェルのせいで機嫌が悪いと思っていたので、 何も言わずに器と箸を片付け、二階に上がった。
翌朝、使用人が居ない為、オータムは早く起きて朝食を作らなければならなかった。 台所には卵と小麦粉があるのを見て、 彼女は小麦粉と水を混ぜて生地を作り、それからオムレツを作った。 朝食が出来上がったとき、チャールズも起きた。彼は意気揚々としていた。
家中にオムレツの匂いが漂っていたと気づいて、 彼は台所をちらりと見て、表情を和らげた。
彼はオータムの存在がこの家に暖かさをもたらしていると感じていた。
「さあ、朝食を食べにきて」 オータムがチャールズに挨拶した。 オムレツと作りたての豆乳はチャールズの食欲をそそり、 オータムのおかげで食へのこだわりが強くなりそうだと彼は思った。
「チャールズ…」 チャールズは朝食後に仕事に出かける所だったが、オータムが恐る恐る彼を引き止めた。「私、地下鉄で会社に行くわ。 乗せて行ってくれなくてもいいわ」
「お前を乗せていくって言ったか?」 チャールズはオータムを見て言った。
彼は、「他の女達は俺の車に乗りたがるんだが。結構だ! 俺が何故こんな冷血な奴に感情を持つんだ?」と思っていた。
そして、振り返らず家を出た。 オータムは立ち尽くし 唖然としていた。 私、何か言ったかしら?
チャールズが動揺しているように 感じたけど。
チャールズが真面目腐った顔つきでオフィスについたので、 皆を神経質にさせた。 デビッド・ファンはチャールズのオフィスのドアの前で長いこと考えており、 あえてドアをノックをせずにいた。
「そこで何してるんだ? 入って来い!」 チャールズが叫んだ。 曇りガラス越しではっきりと見えなかったが、誰かがドアの前を行ったり来たりしているのが見えていた。 このことが彼を激怒させた。
「ルー… … 様… ルー様」 デビットがチャールズの前に神経質に立った。 やっちまった。 ルー様は今日機嫌が悪い。よりによってこんなことがあった。 しかし、報告しないわけにはいかない。 どうしよう?
「何が起こった?」 デビッドの呆然とした顔を見て、チャールズが怒って叫んだ。
「今日… 今日のY市モーニングポストをご覧になりましたか?」 デビッドが慎重に尋ねた。
モーニングポスト?
チャールズは今朝、風変わりな朝をオータムと過ごし、 新聞を読む時間はなかった。
「何が起きたんだ?」 チャールズが眉をひそめた。
デビッドは深呼吸をし、チャールズに叱られる準備をした。 「ルー様、あなたのことがトップページのニュースになっています」
話し終えると、彼は注意深く今朝のモーニングポストを差し出した。 表紙の「シャイニングカンパニー取締役、新婚の妻を裏切りセレブレイチェル・バイと一晩過ごす」という見出しがチャールズの目に入ってきた。
チャールズはその記事に全く興味がなかったが、彼とレイチェルがホテルに入っていく写真をはっきりとみた。
「ルー様。 このニュースは議論を引き起こしています。 あなたの祖父様に知られたら…」 デビットはそう考えるだけで身震いした。 権力のあるチャールズ・ルーでさえ、 彼の祖父の前では子供同然であるからだ。
「誰がこの記事をでっち上げ、公表したのか調べてくれ。 そいつをメディア業界から永久追放してやる」 と、チャールズが激怒した。 そして、「祖父にこのことは知られたくない」と、付け加えた。
「承知しました」 デビットはそれらを書き留め、 「ルー様、この件はどうしますか? 釈明会見を開きますか?」と聞いた。
「必要ない」 チャールズは首を振った。 シャイニングカンパニーの新製品が公表されようとしている所だった。 このニュースは公衆の興味を惹くのに役に立っていた。
「他に何かあるのか?」 チャールズはデビットがまだ突っ立っているのを見て眉を上げた。
「ルー様、 クラウド広告会社のイェさんから、企画の修正が終わったと連絡がありました。 アポを取りたいと…」
「今だ!」 チャールズはデビットの言葉に割り込んだ。
「な… 何ですか?」 デビットはチャールズの助手を長年しており、彼のことはよく知っている人だと思っていた。 しかし今、彼はチャールズの事は全く理解していなかったと気づいた。
例えば、今彼は何故チャールズがクラウド広告会社の事を聞いた途端激怒したのかわからなかった。
もしかして… ルー夫人のせいなのか?
頭の中が混乱していたが、デビットはすぐチャールズとクラウド広告会社に出向くための車を用意した。 やはりデビットはアシスタントのプロだった。
チャールズの要望に従って修正した企画は、 デビットでさえ完璧な企画だと思っていたのだが、チャールズはそれに満足していなかった。
「くだらない! やりなおしてくれ!」 チャールズは、オータムの無関心な態度を思い出して心が乱れたので、彼女に辛く当たるのを止められなかった。
「あの… … ルー… ルー様?」 デビットは、チャールズが彼自身の権力を使って、プライベートのことでけちをつけていたことに気づき、眉間に皺を寄せた。
しかし、チャールズから冷やかに見つめられたため、彼は口を閉じて顔を伏せた。
「ルーさん、 報告会は確かに適切ではないです。 ワインパーティーにしたら、どうですか?」 ライアンは大喜びした。
「ルーさん 」 オータムは長期間一生懸命その企画のために働いた。 この間チャールズは明らかに満足していたのに、 何故彼の希望通り見直した企画が気に入らないのだろうか? そう思って、オータムも少し腹が立ち、「何が気に入らないんですか? 教えてください」と、聞いた。
「全てだ」 チャールズの冷淡な答えに、 オータムは激怒し顔を赤らめた。
彼女は馬鹿ではない。 チャールズが彼女に復讐をしていることに気がついていた。
しかし、いつ彼を怒らせるような事をしたのか彼女にはわからなかった。
チャールズはオータムの表情を見て、彼女が個人的に助けを求めにくると思った。 が、オータムは意地で顔を上げ、チャールズを見つめて言い放った。「わかりました! やり直します」
チャールズはどう答えていいかわからず、呆然とした。
ポーラ・パンはオータムの事が嫌いだったので、チャールズの行動に得意気になった。 ついにオータムを嘲笑える時がきたのだ。 会議室を出た後、オータムはポーラの皮肉を聞いた。「誰かさんは恥知らずね。 もし私が彼女だったら、会社に居続けることが恥ずかしくて辞めるわ」
オータムは全く気にしなかったが、その言葉を聞いたチャールズは眉をあげた。