もしアシスタントの彼が自分にこの嫌なアドバイスをしていなかったら、レイチェルに失礼なことをすることもないし、チャールズの恨みを買うこともないだろうとチャン監督は後悔していた。
「消えろ。 今すぐにだ」 レイチェルがコントロールの効かない状態になっていたので、今、チャールズはチャン監督を痛めつける気分ではなかった。
チャン監督は急いで部屋から逃げ出した。 冷やかな表情のまま、チャールズはレイチェルを腕に抱き、最寄りのホテルに連れて行った。 彼らがそこに着いたとき、すでに医者が彼らを待っていた。
「どう?」 チャールズはチャン監督の話を疑い、医者に尋ねた。彼はその薬には解毒剤があると思っていた。
ベッドに横になったレイチェルは、顔が紅潮したが、まだ意識があって、 誘惑げな目でチャールズに身を投げた。 媚薬のせいで彼女は今まで以上に魅力的だった。
昨晩彼女は自分からチャールズを誘ったが、スーパースターとしてのプライドがあったので、 欲情を曝け出すことはなかった。 でも、今は違う。 彼女は媚薬のせいで露骨に欲情していた。
「チャールズ、助けて。 もう我慢できない…」
医者は彼女の言葉に顔を赤らめ、恥ずかしそうに振り返った。
しかし、チャールズは自制心を失わなかった。 代わりに、彼はレイチェルを部屋の中に閉じ込め、医者と一緒に出て行った。 そして煙草に火をつけ、「解決策はあるのか?」と聞いた。
医者は密かにチャールズの強い自制心を賞賛した。そした、 「ルーさん、この薬の効果が強すぎます。 一つ目の解決策はご存じのようですが… 二つ目の解決策は… 彼女を2時間冷水に浸からせることです。 でも最近は寒いですし、バイさんの体が弱いです… たぶんそれは…」と言った。
彼が言葉を終える前に、チャールズはホテルの受付に電話をかけていた。 「氷を2樽お願い」
レイチェルが動かないようにするため、チャールズは電話線を引き抜いて彼女を縛った。 そして、彼女を冷水の風呂に入れた。それにより、レイチェルは落ち着きを取り戻し、シラフになった。
チャールズは自分と寝るより、冷水を浴びさせる事を選んだと気がついた時、レイチェルは懇願し始めた。 「チャールズ、お願い。私を解いて。 もう我慢できないわ…」
「駄目だ。お前のためだ」 チャールズは懇願する彼女を拒否した。
彼女がいくら懇願しても、チャールズは決して彼女を解くつもりはなかった。 そんなチャールズを見て、レイチェルは甘い言葉を悪態に変え、 ありったけの嫌な言葉で、彼がいかに無力で無能な男かを言い始めた。
医師は彼女の悪態とチャールズの表情に驚きと不安を隠せなかった。 チャールズの顔つきから、怒りに満ちてきているのがわかったからだ。
何時間が経った。 レイチェルはいくらチャールズに叫んでも意味のない事をするのだと気づき、少しずつ落ち着きを取り戻していた。 チャールズは医師に彼女の状態を診てもらった。 彼女が良くなっている事を知り、医師を帰した。
レイチェルは毛布の中でも寒さに震えていた。 チャールズは彼女の青い唇を見て、生姜湯を注文した。 「それを飲んで、よく休んでいろ。 明日には良くなってる」
レイチェルが突然顔をあげ、 悲しい顔で、「チャールズ・ルー。あなたは一体どうしたいの?」と、聞いた。
実際、彼女は映画を撮影する時に同じ様な経験をしたことがある。 氷点下の中でも、短いドレスを着て、笑顔を浮かべ仕事をした経験。 しかし、今日は違った。
私と寝るのがそんなに難しいの? 何故チャールズは私を痛めつけるの?
レイチェルは、たった今起こった事を考えれば考えるほど気分が悪くなった。 彼女は今日起こったすべてのことをその「ルー夫人」に 責任を負わせた。
そんな想いが湧いてきたレイチェルは、顔を歪め、生姜湯を叩き投げた。 そしてチャールズに向かって叫んだ。「私たちは付き合ってるのよ! あなたが私と愛し合わなくてもいいし、 あなたがお祖父様の言いなりになって、あの女の子と結婚する事にも何も言わなかった。 でも、その結果は? チャールズ、今日はあなたに本当にがっかりしたわ」
チャールズは何も答えなかった。 彼は再度生姜湯を頼んだ。 送ってくれた生姜湯をまたレイチェルに手渡した。 そして、「飲むんだ。自分を大切にしろ」と言った。
レイチェルが発作的に叫んだ。「気にしているふりをしないで、チャールズ! 私を心配してくれる人は沢山いるわ。 私は、心配してくれる人ではなく、 彼氏がほしいなの。 ねえ、教えて。私の事、愛してる?」
「レイチェル、お前が落ち着いたら話そう。 今は休むべきだ。 俺は帰る」 チャールズは彼女からの質問を避け続けた。「生姜湯を飲むのを忘れるな」
レイチェルが癇癪を起こしたのは、チャールズは決して自分を置いて行かない事を知っていたからだ。
しかし今、チャールズは帰ることにした。 彼女は動揺した。
自分の体はまだ弱っているにも関わらず、レイチェルは毛布から飛び出し、チャールズのほうへ走っていた。
行かせたら彼が消えてしまうかのように、彼女は後ろから彼をきつく抱きしめた。
彼女は燃えるような顔を彼の背中に付け、謝り続けた。 「チャールズ、ごめんなさい。 胸が苦しかっただけなの。 あなたに怒るつもりは無かったの」
「知ってる? 私、怖いの。 私たちが変わったからだ。 あなたがあの女の子と結婚して、 一緒に暮らしている。 いつか、あなたが彼女を愛してしまうか心配なの。 だから、いつもあなたと一緒にいたいの。 私がいらいらして過ちを犯したことはわかってる。 でも、あなたはわかってくれるわよね?」
「チャールズ、あの子を好きになることは無いって言って。 」
レイチェルはしっかりとチャールズを抱きしめた。 顔を見なくても、彼の体が硬直したことがわかった。 彼女の心は沈んでいった。
が、彼女はあきらめなかった。
「チャールズ、ごめんなさい。 許して。 今後あなたを怒らせないように大人しくするわ」 レイチェルは真剣だった。
しばらくして、チャールズがわずかにため息をついたのを聞いた。 そして、彼は腰に回された彼女の手をほどいた。
彼は振り返り、彼女を一瞥して言った。「自分を大事にしろ。 あまり人に心配させないで」
レイチェルはチャールズが意味していることがわからなかった。
チャールズ自身も混乱していた。
彼は自分がレイチェルを愛していると思っていた。だから祖父が他の女性と結婚するように言ってきた時、強い嫌悪感を感じたのだ。 彼は、レイチェルは親切で思いやりがあると感じていた。 彼女は自分の妻にふさわしいと思っていた。
だから、彼は祖父が自分を結婚させることに憤慨していたのだ。それに、その結婚相手まで嫌がっていた。
しかし最近になり、彼はレイチェルが他の女の子と変わりがないことに気づき始めた。
彼は自分がレイチェルを愛しているかどうかさえ自問した。 彼女を愛していないなら、ただ彼女がそばにいる事に慣れているだけなのか?
チャールズは煙草の吸殻を投げ捨て、車のエンジンをつけた。 レイチェルから「許して」というメッセージが来た。
しかし、彼はそれに返事するつもりはなく、電話を横に投げ捨てた。
チャールズが家に着くと気づいて、オータムは戸惑いながら階下を歩いて行った。
彼女はチャールズが今夜戻ってこないだろうと思っていた。 そして、彼女は慎重に聞いた。「帰ったのね。 お腹すいた? 麺を作ってあげようか?」
思いがけない事に疲れ果てていたチャールズが、「オッケー」と言って頷いた。
その答えに少し驚きながら、オータムは台所に行った。 お湯を沸かしている間、卵を炒めた。 それを麺の上に乗せると、美味しそうな食事ができた。
「ゆっくり食べて。 口を火傷しないように気をつけて」 彼女はチャールズの前に座り、彼が麺を食べ尽くすのを見ていた。 彼女は奇妙がって、眉間に皺を寄せ聞いた。「バイさんに会いに行ったのね。食事に連れて行かなかったの?」
チャールズはしばらく考えることができなかったが、 すぐさま弁解しようとしていた。