「そうだな」 オータムは単純に聞いただけだったが、チャールズが答えてくれたとは思っていなかった。
「従来の年会は慣例的で新味が乏しかった。 今年はシャイニングカンパニーの50周年を迎えるし、 最近幾つかの会社を買収した。 だから、ワインパーティーを開催するよりも、従業員へのボーナスにお金を使いたい」 と、チャールズは続けた。
オータムはうなずいた。 彼は夫としてはいい夫ではないが、上司としては素晴らしい男だと彼女が思っていた。
「朝食は終わったか? 会社まで送って行くよ」 オータムが箸とお椀を置いたのを見て、チャールズが聞いた。
会社まで送るって… また?
「いいえ、大丈夫よ」
「さぁ、行こう」 オータムの辞退はすぐさまチャールズによって拒否された。 彼は彼女の手を引っ張リ、車まで連れて行った。
車の中で少し休むことができると考えて、オータムは彼の好意を受けた。昨夜遅くまで起きていたため、彼女はすぐに眠りに落ちた。 会社に到着し、チャールズは彼女を起こした。
チャールズが彼女が昨日降りた場所に車を停めているのを見て、オータムは安心した。
「また、後で」 チャールズが言った。 オータムは彼の本当の意味に気づかなかった。 彼女がラップトップを手に持ちオフィスに入ると、すぐにライアン・チョウに止められた。「やっと来たな、企画はどうなってる? 相手がもうすぐ来るの…」
「チョウさん。 イェはこの会社のトッププランナーですよ。 彼女を信用してください」 オータムが何か言おうとする前にポーラ・パンが嫉妬心から言った。
ポーラはオータムよりも長年この会社に勤めている。 しかし、彼女はオータムの足元にも及ばず、 給料も今のオータムより低かった。 そのため彼女はオータムを嫌っていた。
「最善を尽くしましたが、結果を保証することはできません」 ライアンはポーラの言葉を聞いてうれしかったが、オータムの回答を聞いて不安になった。
「イェは控えめすぎるわ」 ポーラが冷笑した。
「もういい! 」 ライアンはオータムを見て、「とにかく、この件についてはお前に任せる。 真剣に受け止めるべきだ」と言った。
「わかりました」 オータムが頷いた。
9時に、オータムがまだパワーポイントを確認している間、シャイニングカンパニーのメンバーが到着した。 新人受付係が「イェさん、早く来て下さい。 シャイニングカンパニーの方々が到着しました」と、呼びに来た。
オータムは戸惑った。 彼らが到着したのなら、何故直接会議室に案内しないんだろう? しかし、受付係は彼女をオフィスから引っ張り出しながら、「さっさと行かないと、 チョウさんが 待っているわ」と促した。
ゲートでは2つのグループが並んでいた。 ライアンは彼女に手を振リ、神経質そうにコートを整えていた。 この時、いつもカジュアルな服装でいるライアンさえが、今日はスーツを着ていることにオータムは気づいた。
彼女はその場にいる人々を見回した。 皆、真剣そうな顔をしていた。 ポーラ・パンでさえ違って見えた。 彼女はいつもより… 色っぽかった。
ただの代表者じゃないの? チャールズが直接ここに来ることはないだろうとオータムは思っていた。
彼女は普段から野次馬根性ではなかったが、 今となって、その代表者は誰なのかにとても興味があった。
エレベーターのドアが開くと、紺色のスーツを着た男性とその後に数人が、クラウド広告会社の門に向かって歩いて来た。
それは… 今日彼女を仕事に送り届けた男だった。
オータムは、この件はシャイニングカンパニーのものであることを知っていたが、 年会の件でチャールズ自身が出向いてくるとは思ってもみなかった。 ライアンがとても緊張していたのも不思議ではなかった。
「ルーさん」 ライアンはすぐにその男に駆け寄り、「ようこそいらっしゃいました。 こちらへどうぞ」と言った。
オータムはチャールズが自分をちらっと見ていると感じたが、 気にしていなかった。しかし、隣に立っているポーラが興奮していた。
「なんてこと、彼は私を見ていたわ。 私を気に留めたわ!」
「パンさん、考えすぎよ」 新しい受付係のレイラ・チャンが彼女を嘲笑した。 「ルーさんは 結婚したばかりよ。 イェさんが休暇を取っていた時だったわ」
オータムがそれを聞いた時、心臓の鼓動が一瞬止まった。 もし彼らが自分はチャールズの妻であることを知ってしまったら、やばい事になるだろう。
「なんだって? 結婚したの?」 ポーラは疑いの目でオータムを見た。
もしかして、チャールズは彼女と? いえいえ、あり得ないわ。彼らの格差がありすぎよ。
チャールズが盲目でない限り、オータムとは恋に落ちないわ。ポーラはすぐにその考えを後にした。
「イェ、早くこちらへ」 後ろにいるオータムを見て、ライアンは手を振りながら、 彼女を呼んでいた。
ライアンの元に行く前に、彼女は従業員たちに注意せずにいられなかった。「こんな重要な時に、馬鹿げた噂で時間を無駄にしないで。 レイラ、お茶を用意して」
「あなた、自分は社長の妻だとでも思ってるの?」 ポーラが彼女に隠れ不平を言った。
オータムはポーラの事など気に留めず、慌ててライアンの後に続いた。 ライアンは彼女をチャールズに紹介した。 「ルーさん、彼女はイェ、当社のプランナーです。 シャイニングカンパニー年会についての責任者です」
「はじめまして、 ルーさん」 オータムは上品にチャールズに手を差し出した。 チャールズは彼女と握手したとき、彼女の掌をくすぐった。
オータムは同僚が彼女を苗字で呼んでくれることをラッキーだと思った。イェというのはイボンヌの名前を省略した呼び方だったからだ。 そうでなければ、チャールズに正体がばれる彼女は追い出されるかもしれない。
「では… 始めましょう」 オータムは考えを整理し、仕事に取り掛かった。 彼女は間違いなく仕事ではプロだった。
チャールズと彼の会社の人々の前に立ち、オータムはプレゼンテーションを始め、スムーズにアイデアを紹介し始めた。 彼女はチャールズの情熱的な目を見ないようにしていた。 PPTの画面に「終了」と表示された時、安堵の大きなため息をついた。
「ルーさん。 もし私がシャイニングカンパニーの従業員であったら、ワインパーティーの代わりに、50周年の年会で会社がある程度のボーナスを私たち従業員に与えてくれたらいいと思っています。 そのため、経費を節約するために年会を報告会にします。節減する経費はボーナスにするといいと考えていました。 従業員たちは会社の基盤ですから」 オータムがプレゼンテーションを終えたとき、チャールズに同行していた男達はお互いにひそひそ話をし始めた。 明らかに、彼らはオータムの企画にとても満足していた。 チャールズの目も賞賛の気持ちであふれていた。
しかしライアンの顔は渋かった。
彼はお金を稼ぎたかったからだ。 だから、裕福なシャイニングカンパニーが彼の元を訪れた時、大金を稼げると思ってその依頼を受けたのだ。
しかし、オータムのプランは収益をほぼ半分に減らせる。
「イェ、一体どうしたって言うんだ?」 ライアンはここにいる代表者達を気にしなかった。 彼は立ち上がリ、オータムを叱責し始めた。
「お前、知らなかったのか…」 「チョウさん!」 オータムは長年ライアンの元で働いているので、彼が収益だけしか考えていないことはよく知っていた。 だから、今のような場合では、彼女はライアンの話を遮った。 「ルーさんの意見を伺ってはいかがかしら?」
「悪くない」 チャールズは言った。「しかし、幾つかの詳細をイェさんと話し合いたい。 もう昼食の時間だ。 チョウさん、 しばらく貴社のトッププランナーをお借りしてもいいかな?」
「どうぞ、どうぞ」 ライアンが「では、昼食の手配をさせます」と笑いながら言った。
「お構いなく」 チャールズはライアンの言葉を遮った。 そして何も言わなかった。しかし、彼の意図はすごく明白だった。
彼はオータムと二人だけで昼食をとりたかったのだ。
「わかりました」 ライアンは馬鹿ではない。 彼はチャールズの意図をよく解っていた。 彼は笑顔でオータムを横に連れて来て彼女に言った。「イェ、どうしてもルーさんのお世話をするように。 ぜひ彼を喜ばせるぜ。 わかったか?」
「チョウさん、 こういう事は私の役目では…」 ライアンの言葉はあまりにも露骨で、オータムは彼にがっかりしていた。
「彼は私を何だと思っているのだろう?」