「ルーさん、 ご心配なく。 この企画がルーさんのご満足のいくようにいたします」と、ライアンは意味ありげな微笑で言った。 チャールズが突然歩くのをやめたので、後ろにいたライアンは彼にぶつかりそうになった。
「ル、 ルーさん。 どうかされましたか?」 ライアンは遅れて出てきたので、ポーラの言ったことが聞こえなかった。 チャールズが瞬きもせずポーラを見つめているのを見て、彼は驚いた。
チャールズはオータム・イェに目を掛けてるのではなかったか? どうしてポーラに興味を示してるんだ?
ポーラは美しい女性ではあったが、若くて活気のあるイェと比べたら、それほど魅力的ではない。 それに、ポーラはかなり年上だ。
そう思いながら、ライアンがポーラに手招きした。 ポーラは上品に彼に近づいていき、意味ありげに言った。 「ルーさん」
彼女の声は魅惑的だった。
「ルーさん、 当社のもう一人のプランナー、 ポーラです」と、ライアンは笑顔でポーラを引き寄せて紹介した。 ポーラはチャールズが支えてくれる事を期待し、わざと倒れそうなふりをしたが、 無駄に終わった。 チャールズは身を躱し、ポーラは倒れ込みそうになった。
「ルーさん…」 ポーラがチャールズを見ながら不満そうに言った。 彼のような貴族の血を引いている人と結婚するのはできないけど、 彼の愛人になれば優雅な生活ができるわと彼女が思った。
ポーラはオータムと全く違い、金持ちの男と付き合うという人生の目標があった。
「ルーさん、 イェは経験不足で大きな間違いを起こしました。 彼女はこの企画には適していません。 私を信用して頂けるのなら、この企画を引き継ぎますわ。 満足のいく企画にいたします」と、ポーラは真面目腐った約束をした。
チャールズはポーラを無関心に馬鹿にしたように見て、「あなたは自分が適任だと?」
「ルーさん、 ポーラは有能なプランナーの一人です。 彼女は…」ライアンはずっとワインパーティーではなく報告会という企画をしたオータムを恨んでいたから、 チャールズがイェの能力を怪しんでいるこの時、 他の誰かをイェの代わりにするチャンスだと思っていた。
それに、イェに比べたら、ポーラはよりコントロールしやすい。
「この数年間、俺が立ち向きできない程、イェは大きく進歩した。 では、このことで彼女を押し込めよう」とライアンは考えていた。
チャールズはライアンが話し終える前に遮った。「チョウさん、 あなたはいつから誰それ構わず企画を任せるようになったんですか?」
「な…なんですって?」
「今日言っておくが、イェがシャイニングカンパニーのこの企画について、全て担当する。 彼女を悪く言うのはやめたまえ。 彼女の邪魔をするものは後で後悔することになる」チャールズは恐怖で震えているポーラに目を向けながら言った。
ポーラは、チャールズはオータムをサポートするためにここに来たのだと気づいた。
落ち着きを保っていたが、心の中では怒りが込み上げてくるのを感じていた。
なぜ?
どうしてイェが会社のいいとこ取りをするの? チャールズでさえ彼女を高く評価している。
どうして私じゃないの?
「企画が整ったら、イェに私の会社に届けるように伝えてくれ」と、チャールズは会話を終わらせ、クラウド広告会社を後にした。 デビットが後を追った。
こんな些細な企画の為に、二度もここに来ることになるなんて。 会社の取締役として威勢を示し、 あの女に俺が穏便でない事を知られておいた方がいい。
オータムは企画の変更に集中していた。 彼女は外で何が起こっていたのか知らなかった。 レイラ・チャンがオータムにコーヒーを持ってきた時、「イェさん、ポーラの陰気臭い顔見た? 2日前に注射したヒアルロン酸で若くて綺麗な顔を保ってるけど、怒りでそれも台無しだわ」と、言った。 オータムがその純粋さと謙虚さで誰からも好かれるのに対し、ポーラは性格が良くなく人との折り合いが悪かった。 だから、会社の人達はポーラの起こした失態を嘲笑っていた。
オータムはその事を聞き、チャールズの意図が何であるかを考えていた。
大勢の前で私に恥をかかせたと思ったら、私をかばったり。 なぜかしら?
「イェ、企画は進んでる? 手伝おうか?」 レイラはコーヒーを持ってきてポーラの噂話をした後もその場から立ち去らず、 オータムに近づき、助けが必要かどうか尋ねた。
オータムは彼女の親切な言葉に首を振り断った。「コーヒーありがとう。 それと、ポーラの噂話はしないでね。 私は気にしていないけど、人前でこういう事を言うのは良くないと思うわ」
ポーラはどんな些細な不平でも復讐をするような人間だ。 もし彼女がレイラが言った事を知ったら、狂ったような復讐をするだろう。
優しいオータムはレイラに注意するよう促した。 しかし、他人の善意を悪意にとらえる人もいるという事に彼女が気付くまで時間がかかった。
レイラが去った後、オータムはかなり長い時間仕事をしていた。 チャールズって人の粗探しをする人だわ。 でも、仕方ない。彼は顧客なんだから。 彼女に出来る事は企画をし直すことで、それ以上何もない。
電話の呼び出し音で、彼女が思い耽っていた事が途切れた。
チャールズからだった。
彼が率直に聞いた、「もう遅いじゃないか。 何故まだ働いてるの?」
オータムが窓越しに見ると、オフィスの殆どの人は会社を後にしていた。 「やる事があるの。 少し遅く帰るわ」と言った。
「だめだ!」 チャールズは彼女の話を 聞くつもりはなかった。 彼は断固とした口調で、「荷物をまとめるのに5分やる。 お前の会社のビルの前で待ってる。 帰って、夕飯を作ってくれないか」と言った。
「お手伝いさんは居ないの?」 オータムは眉をひそめ、文句を言ったが、チャールズに電話を切られた。 この時のチャールズはクラウド広告会社の入り口を嬉しそうに見ていた。
まもなくオータムが出てきたのが見えた。
「先にニュー・ストリート市場に行こう」オータムが車に乗り込み、シートベルトを締めながら言った。
「何故市場に行くんだ?」
「夕食を作ってくれって、私に言わなかったっけ? 家に野菜がないの」 オータムはニュー・ストリート市場で夕食の材料を買うのは当然だと思っていた。
しかし、そこは様々な人達が集まる混雑している場所だと知っていたチャールズは眉を狭め、 スーパーで買い物をするように勧めようとしていたが、 オータムは彼の意見を聞く気分ではないと分かった。「ニューストリートマーケットは遠いけど、安くて新鮮なものがいろいろあったのよ。 買い物をするのはいい場所よ」と彼女の声が聞こえてきたからだ。
「そこに良く買い物に行くのか?」 チャールズはさりげなく聞くふりをした。
「ええ」 オータムは祖母に育てられた。 お金を節約するために、 彼女は30分長く歩いてこの市場に何度も来た。 しかし、オータムはすぐ自分は裕福なグー家のイボンヌであるふりをしている事を思い出し、市場の物売りと今まで通りに値切ることは出来ないと思った。 そして、すぐ自分が言ったことを翻し、「いつも使用人がここの市場のことを話していたから、親しみがあるのよ」と言った。
「本当か?」 チャールズが上の空で聞いた。