オータムは暫く待っていた。 チャールズの助手であるデビットが会いに来たとき、彼女はソファで寝てしまっていた。
チャールズの会議は10分程で終わると聞かされていたが、30分以上掛かったのだ。 昨夜、十分な睡眠を取っていなかったオータムは、気が付かないうちに寝てしまっていた。 この事はデビットを困らせた。
彼はイェさんが実は ルー夫人だという事を知っていた。 もし起こしたら、彼女を怒らせるかもしれない。 怒らせたら仕打ちされるかなと、デビッドは思っていたのだ。
運がいい事に、デビットはそれほど待っていなかった。 忙しいオフィスに思いがけない訪問者が現れたからだ。
「デビット」 デビットは、誰かが自分を呼ぶのを聞いた時、丁度イェさんを起こそうかどうか迷っている所だった。 彼が振り返ると、明るい笑顔の綺麗な女性がいた。 レイチェル・バイだった。 彼は心配し始め、それに気まずくしていた。
チャールズの妻と愛人が同じ屋根の下にいるなんて! 最悪だ!
「バイ…さん」 デビットはとても緊張しており、 吃り始めた。 彼はオータムにもう少し寝ててもらいたかった。 オフィスで厄介な事になるのを避けるためだ。
残念な事に、レイチェルの声でオータムが目覚めた。 彼女は立ち上がって、服の皺を手で直しながらデビットに聞いた。「デビット、取締役の会議はもう終わりました?」
「まぁ…」と、デビッドはレイチェルと オータムをぎこちなく見た。
この二人の女性の感情を害わせることは彼には出来ないからだ。 なんてことだ!なんで俺の上司は遊び人だよ? と、デビットは思っていた。
「新しい秘書さん?」 レイチェルはこの会社の事に精通しており、 全社員の事を知っているのだ。 彼女はオータムがここの新入社員だと思った。
オータムがとても可愛らしいのを見て、レイチェルは隙を見せないようにした。 紙袋をオータムに手渡し、「この茶菓子を皆んなに配ってきて。 私、ここの取締役と話があるの。誰も入れないで。邪魔しないでね」と傲慢な態度でレイチェルが言いつけた。
彼女はここの社員の機嫌を取るため、 わざわざ自分のアシスタントに茶菓子を買いに行かせたのだ。
オータムは手元にある紙袋を見て眉をひそめた。
「早くしないさい!」 レイチェルが叱った。 あの夜以来、チャールズは自分と距離を取っていたと彼女は分かった。 だから今、彼らの関係についてのニュースが出回り始め、彼との関係を確実にするため、彼女はここへ来た。
しかし、彼の新しい秘書が自分の気分を害するとは思っても見なかった。
レイチェルはオータムを知らなかったが、 オータムは有名人であるレイチェルの事をよく知っていたのだ。
チャールズが自分と企画の件についての会議をするためのアポイントを最初に取っておきながら、同じ時間にレイチェルまで呼んでいるとは…オータムは本当に怒っていた。
「私は…」オータムがレイチェルに自分は秘書ではないと言おうとした時、すぐ横に立っていたデビットがオータムの手から紙袋を取り、言った。「これは私が皆に配っておきます」
そして、レイチェルの方に振り向いて、「バイさん、ここで少しお待ち頂けますか。取締役は既にアポが…」
「私より大切なことはあると思ってるの?」 レイチェルは自信満々でチャールズのオフィスのドアを開けた。 しかし、チャールズは彼女を見もせず、「入る時はノックぐらいしたらどうだ。そんな事もわからないのか? 一体どんなマナーをしてるんだ?」と、言い放った。
「チャールズ…」レイチェルはこの会社の事には慣れ親しんでいたので、何気無い行動を取ったのだ。 チャールズはこれまでこのように彼女を扱ったことがなかったので、 彼のこの言動は彼女を傷つけ、怒らせた。
レイチェルの声を聞いたチャールズは頭を上げ、レイチェルがドアのところに立っていることに気づいた。 彼は眉をひそめ、「君か?」と、聞いた。
「他に誰が来るっていうの?」 レイチェルは落ち着きを取り戻した。
チャールズの怒りは彼女に向けられたものでは無いようだ。
「気にしないでくれ。 なぜお前がここにいるんだ?」 チャールズが何気なく聞いた。 彼の口調は、感情が無く、疎外感を感じさせるものだった。
あの晩の事を思うと、チャールズはレイチェルに対して感情を抱くことはできなくなった。
「この地域で撮影があったの。 あなたがまだ朝食を食べていないと思って、食べ物を買ってきたのよ」 レイチェルは何事もなかったかのように、笑顔で言った。 彼女は手に朝食を見せびらかして続けた。「さあ、食べようよ。あなたが好きなレストランで買ってきたのよ」
チャールズは眉をひそめた。 あの晩以来、彼はレイチェルから距離を取ろうとしていた。 何故だかわからないが、彼には考える時間が必要だった。
「大丈夫だ」チャールズが冷たく答えた。「俺は既に朝食を済ませた。 何か重要な事が無いのなら、今すぐ出てってくれないか。 アポがあるんだ」
チャールズに背を向けて立ち、朝食をテーブルに並べていたレイチェルはその言葉に戸惑い、 悪意で目を光らせたが、 すぐに表情を変え、笑顔で振り向いた。 「この朝ご飯を買う為に早起きしたのよ。 お願いだから、一口だけでも食べてみない?」
レイチェルは蒸し団子を取り上げ、チャールズに食べさせようとした。
チャールズは戸惑って、 レイチェルを止めようとした丁度その時、誰かが怒りながらオフィスのドアを開けた。
デビットはオータムを止めようとしたが、遅すぎた。
チャールズとの時間を邪魔され、レイチェルの顔から血の気が引いた。 彼女は怒ってオータムを見て、デビットに向かって叫んだ。「デビット、いつから空気を読めなくなったの? 自分の上司が忙しくしているのがわからないの? 新しい秘書は頭が良くないし、彼女を教育するのはあなたの役目でしょ」
レイチェルは先程初めてオータムに会った時から、彼女の事は好きではなかったので、 今は嫌味を言う絶好のチャンスだと思った。 だから、彼女はチャールズの手を愛情深く握り、話し始めた。「チャールズ、この女を見てよ。 どうしてこんなスタッフを雇ったの? 後で後悔しないために、今首にしたほうがいいと思うわ」
オータムは激怒している表情でチャールズを見つめたが、何も言わなかった。 このことがチャールズに罪悪感を感じさせた。
デビットは不安になって、チャールズを見る勇気がなかった。 彼はすぐにオータムの前に立って言った。「イェさん、当社の取締役は今忙しいようで…」
「忙しいですって? なにで?」
オータムは落ち着いた表情で聞いたが、 これ以上怒りを鎮めることはできなかった。
チャールズが彼女の企画を否定したから、彼女はそれを見直す為何晩も徹夜をした。
今朝オフィスに来た時、チャールズは会議中だと言われ、彼女も辛抱強く待っていた!
でも、一体何を待っていたんだろう?
彼が愛人との出会いだったのか。 オータムはレイチェルのせいで、外で長い時間待たされたのだと感じていた。
彼女はチャールズとの結婚はただ同意書に基づくものなので、こんな事が何処で起っても無視していればいいと思った。 しかし、今は仕事に関わる事で、彼女はこれ以上我慢ができなかった。
彼女は怒りから言い放った。「ルーさん、 愛人相手に忙しそうですね。 あなたのようなリーダーで、ここまでシャイニングカンパニーが世界で成功してきたのは、ある意味奇跡ですわ」