千早 翔の小説・書籍全集
アルファが誤って私を拒絶した
この三年間、私はアルファである玲央様の「運命の番(つがい)」だった。 彼がその名を口にすることは、ただの一度もなかったけれど。 彼の心には、一条薔薇(いちじょう ばら)という別の女性がいた。 私はただ、彼が正式に彼女を迎え入れるまでの、邪魔な仮初めの存在に過ぎなかった。 父が死の淵をさまよっていた夜、私は彼に懇願した。 約束してくれた、命を救う薬を届けてほしいと。 彼は、薔薇と一緒だった。 私たちの精神を繋ぐリンクの向こうから、彼が一方的にそれを断ち切る直前、彼女の笑い声が聞こえた。 「くだらないことで俺を煩わせるな」 彼は、そう唸った。 その後、彼の愛する女は病を偽り、父のそばにいた熟練の治癒師たちを一人残らず引き離した。 私の「運命の番」が、他の女とタキシードを選んでいる間に、父は息を引き取った。 私の父の命は、私の半身であるはずの男にとって「くだらないこと」だったのだ。 彼は盲目的な執着の果てに、殺人者の片棒を担いだ。 でも、彼は私が何をしたのか、まだ知らない。 数日前、彼が彼女からの電話に気を取られている隙に、私は分厚い書類の束に一枚の紙を滑り込ませた。 彼は中身も読まずにそれに署名し、手首を軽く動かすだけで、自らの魂を断ち切った。 彼が署名したのは、「離縁の儀」の誓約書だった。
