エドワードは、カフェに入るとすぐにジェシカ・リンを見つけた。 できれば彼女に会うことは避けたかったのだが、過去の関係上、仕方がない。
ジェシカは、エドワードがなぜ彼女に無関心になったのか知らされることも無いまま、 レン家のパーティー以来ずっと エドワードに避けられていたので、 彼に何を告げられるか怖かった。 それでも、今日は久し振りに彼に会えるという事で、精一杯おしゃれをした。 その甲斐あって、今日の彼女はまた魅力的で可愛らしい。
「エドワード、会えて嬉しい」 ジェシカは同時に喜び、恥ずかしさ、驚きの3つの表情を露わにしながら、立ち上がって言った。
エドワードは彼女の言葉に無表情でうなずき、 仏頂面のまま、柔らかいソファに身を沈めて彼女をちらりと見た。
「用事でもあるのか」と尋ねた。 エドワードは一度何かを決めたらゆるぎない意志を貫く人物で、 元カノに執着することは決してなかった。 興味のない女に愛されてもうっとうしいだけだったから。
「エドワード、どうして電話に出ないの? すごく寂しい」 ジェシカは言葉を一つ一つ注意深く選んで使った。 目の前の男は理想的な彼氏ではあったが、決してそれ以上の深い関係を求めてこなかった。 それでも、エドワードが遅かれ早かれ自分のものになると信じていたので、不安になることは無かった。
彼が思いやりのある女性が好きだと知って、ジェシカはいつも寛大で寛容で愛情のある人を演じてきたし、 彼と一緒にいるためにあらゆることを試みた。 その試みが功を奏し、遂に彼女は彼と最も長く付き合った女性という肩書を手にした。その関係に満足していた矢先、 突然彼の息子が現れたのだ。 こればかりは完全な想定外で、一体誰がこの展開を予測できただろう。 さらに悪いことに、彼の気持ちが冷めてしまっている。 その一変した気持ちについて、何も分からないことが、彼女の恐怖と絶望を掻き立てた。
「ジェシカ、お前は俺のこと分かってくれてると思ってた。 でもそれは間違いようだな」 エドワードは穏やかな声で言った。 彼女を避けた理由は、彼女の本当の心が見えてしまったから。 彼は、自分を思い通りに操ろうとする女性や特別扱いされていると思い込み、彼女ヅラする女性が嫌いだった。
「私が何をしたって言うの? なぜ私は振られたの? 理由を教えて。 あなたの為なら変われるし、何でもできるって知ってるわよね?」 ジェシカは潤んだ目で、下唇を震わせながら言った。 彼女の青白い顔と儚げに輝く姿は、エドワード以外のすべての人を魅了したが、 肝心の彼は、まるで血が通っていないかのような無表情を崩さなかった。 エドワードは情熱的な男だったが、一方冷酷な面も持ち合わせていて、 詰まる所、そういう人と一緒にいてもケガをするのが落ちだ。
「お前には何の落ち度もない。 お前は美しくて魅力的だ。 ただ俺がお前への興味を失っただけ」 相手の気持ちに全く配慮のない残酷な言葉が、 薄い唇からそっと吐き出された。
その言葉は落雷のようだった。 ジェシカは信じられないといった面持ちでスカートをぎゅっと握りしめ、その顔はどんどん青ざめていった。 自分が彼にとって特別な人ではなかったという事実を受け入れるのは困難で、 息をするのも忘れた。たった今エドワードに言われたことを考えると、目いっぱいに涙が溢れ出た。
「どうして? あなたの息子の母親のことが好きになったの?」 ジェシカは声を震わせながら言った。 どの女性が彼女に取って代わったのか知りたかったのだ。
それを聞いたエドワードは深刻になり、石のような静かな顔で彼女を見た。 彼はふかふかのソファの上で、姿勢をピンと正し、再び残酷な言葉を吐き出した。「ジェシカ、君の居場所はここには無い。 君はたくさんいる女性の中の一人で、 俺の愛に値する人物ではない」