エドワードはひどく自慢屋である。 ジャスティンはパパのスポーツカーを見て、あきれずにはいられなかった。ったく、パパったら、もう少し目立たない様にすることはできないのかと彼が思った。 その車が真っ赤にして、エドワードの外観と同じ様に見事でピカピカ輝いている。 彼の父親は控えめな母親とは全く違うタイプの人間だった。 道理でこの二人がこれまで一緒に住んでいないのだ。
そばにいる護衛が車のドアを開けた。エドワードは息子を車に乗せて、シートベルトを締めてあげ、 その動作がまるで慣れたかのように、スムーズにやられた。
「自分で運転するから、付いて来ないでくれ」と、エドワードは小さな男の子から目を離さずに冷たい口調で命令した。
「若様、どうか後方に付かせてください!」 とルーク・ルオは低い声で要求した。 彼にとって、若様の護衛は、人生の全てだった。 その使命を全うするために、一生懸命自分を訓練し、一日すら仕事を怠けることはなかった。 今の位置に立つ若様が沢山の輩に狙われていることは知っている。 だから、何をするにも細心の注意を払う必要がある。
「まあ、それが良いと思うなら、いいだろう」 エドワードは手下を困らせたくなかった。 たとえ帰してもひどく心配してくれると知っているからだ。 実はルークのことをいつも兄弟のごとく扱い、ただの護衛と見なすことは無かった。 そのため、たまには彼の進言にも耳を傾けた。
週末ではなかったせいか、ケンタッキーは空いている。それでもエドワードの優雅な存在と類稀な容姿は多くの目を惹きつけた。
自分をじろじろ見つめている視線を無視し、テーブルを見つけ、息子を注意深く椅子に座らせた。
「可愛い子ちゃん、パパが食べ物を注文する間 ここに座って待っててね」 エドワードはスリムな体を曲げて息子に相談を持ち掛けた。
「うん、大丈夫、自分一人でも全然怖くないよ」 怖がるなんてとんでもない。むしろ彼は興奮していた。 ママは常にジャンクフードはだめと言っているので、普段この類の店には連れて行かなかった。
だが彼の父親はそれを知らなかった。 後に、エドワードがこの事を思い出すと、自己嘲笑するしかないだろう。だって、彼ほどの権力者がこの小さな息子に踊らされていたのだから。
頼んだ食べ物はすぐに来た。そのほとんどはジャスティンの大好物だ。 だが思いも寄らない事態もあった。店員はエドワードにメロメロで、ずっと彼を眺めている。その不躾な対応にエドワードは怒りを覚えたが、なんと、それをマナー良くさらりと受け流した。
「おいしい?」 エドワードはチキンを美味しそうに頬張る息子に微笑みかけた。 その優しい笑顔に店中の視線が釘付けになった。
「うん!おいしい ママはジャンクフードはダメって言ってここへは連れて来てくれないんだ」 ジャスティンはつぶやいた。
「ええっ! ...」 と、息子の話に息を詰まらせた。 これがジャンクフードだと知りながら、ここに連れてこさせたのか。 息子に試されていたのか? まあまあ! ジャスティンがあまりにも美味しそうにチキンを食べているので、よしとすることにした。
ところで、自分の妻についてますます興味をそそられた。彼女はどんな女性なんだろう? どうしてあんなに冷たくなった? そして何よりも、なぜ何も言わずにこの子を産んだのだろう? あの時の言葉のせいで?
エドワードは両親から結婚を余儀なくされていたので、その結婚に反発していた。 決して彼女のことが嫌いなわけではなかった。しかしながら、どこにもぶつけようのない怒りの矛先は彼女に向いてしまった。 後に、あれはさすがにやり過ぎたかと思うこともあった。 デイジーのことを勝手に両親の一味だと思い込み、 彼女を誤解してしまったのかも知れない。
しかし、彼のプライドはあまりにも高く、 自分の間違いを分かっていても、決してそれを認めなかった。 自分のしてしまった事に向き合いたくなかったので無視し続けた。 結局何年もの間、彼の名目上の「妻」を気に掛けることは無かった。 顔さえ覚えていなかった。 可愛かったのか、十人並みだったのか、それさえも思い出そうともせず、 ただ自分の人生を送った。 その間、無数の女性と出会ったが、この人のことをもっと知りたい、と思えるほど彼の心を惹きつけた女性は一人も現れなかった。
「伯父さん、食べないの?」 ふむふむ、伯父さんとは、彼にぴったりの呼び名だ! ジャスティンはパパと呼びたくなかった。 周りの人を掌で転がすために素晴らしい演技を心得ている。 だからママでも、自分の息子がそのようなよこしまな考えを持つ少年であることに気付かなかった。
「いや、どうぞたくさん食べなさい、あいにく俺はお子様の食べ物が好きじゃないね」とエドワードは言った。彼が眉をひそめ、その女性の言う通り、これらはジャンクフードだと思った。
まったくもって子供は何を喜ぶのか分からない。 逆に言えば、子供たちも大人の世界がわからない。 彼らのおいしい食べ物は大人にとって不健康なものにしか見えない。 でもジャスティンはそんなことを気にせず、ただ目の前にある食べ物を楽しんでいた。 ママが戻って来たら、このような美食とおさらばだ。
エドワードがジャスティンの腹案を知ったらどう思うだろう? 愕然とするのか、それともあっぱれと膝を打つのか? どちらにしても、この後最高に可笑しな事件が起こるのだ。
彼らがケンタッキーを出ると、ルークはもう店の前に車を回していた。 突然エドワードの電話が鳴り、発信者番号を見ると一瞬ためらったが、ついに電話に出た。
「もしもし! あぁ、ジェシカ、どうした?」 彼はジャスティンを車に乗せて自分も乗り込んだ。
「エドワード、会いたいわ、今夜一緒に夕食を食べましょう?」 色っぽい可愛らしい声で迫ったが、女慣れしたエドワードにはいまいち効き目が薄いよう。
「今晩?」 エドワードは息子をちらっと見た。なぜなのか突然少しばつが悪くなったのだ。 ジャスティンは車の中でとても落ち着いていた。 彼には電話口の内容が聞こえないようだった。 実のところ、ジャスティンの小さな耳は、女の名前を聞くや否や小動物の如くぴくっと立ち上がった。 でも彼を責めないで! 父親の周りには常に女性の影があって、 知らないふりをしても限界があるだろう。
もしこの男がママの好きな人なら、ママのためにも、何としても彼を取り戻さないと。 そもそも、この男が父親であろうがなかろうが、今まで何人の女性と関係を持っていようが、ジャスティンにとってはどうでもいいことだ。
「昨日の夜約束したんじゃない、忘れちゃった?」 ジェシカは自分の甘美な声色がどれほど魅力的であるかを知りながら、目いっぱいセクシーに尋ねた。
「そうだったね! 今夜迎えに行くよ」 ほら、エドワードはすぐに彼女に熱を上げている。 彼女は男の扱いに長けているんだ。
「若様、どちらへ? 帰社されますか、それとも別荘に?」 エドワードが電話を切るとルークはすぐに尋ねた。 自分の主人が一体いつどこでこんな大きな息子をこさえてきていたのか疑問に思っていたが、黙り込んだ。 いちいち余計な詮索をしなくとも、時が来れば分かるだろうと思ったからだ。
「まず会社までお願い! それから坊っちゃんを別荘に連れて行ってあげて。 今夜は遅くまで戻らないから、 ウーさんにこの子の世話を頼んでください。 後、息子に信頼できる護衛を二人選んでくれ」 ジャスティンが新しい環境に慣れなくて心細いのではと心配し、本来なら仕事が終わり次第別荘に戻ろうと思っていたのだが、 ジェシカとの約束があったので、ジャスティンをルークに任せなければならなかった。
「かしこまりました 手配いたしますので、ご安心なさってください」 実際、ルークは寡黙な男で、相手に話しかけられなければ決して自分から切り出さないタイプだ。
「よろしく! 君は本当に頼りになる。 あと、デザイナーに子供の寝室を用意してもらって。 一流の資材を使うように!」 とエドワードは命じて、 少しネクタイを緩めた。 今日は暑すぎた。
「承知いたしました。子供部屋はどれにしたほうがいいでしょうか」 自分の主人がとんでもない道楽者であることを分かっているので、あえて部屋の位置を確認した。 彼はいつも違う女性を別荘に連れ込んでいた。 もし間違った部屋を配置し、子供が見てはいけないものを見せたら大事だ。
「私の書斎の隣に頼む! あの部屋は日当たりが良いからな!」 エドワードは彼をちらっと見て、これ以上何も言わなかった。 ルークは本当の理由を理解した。 その部屋はエドワードの寝室から一番遠く離れていたのだ! でもこれは彼の想像に過ぎず、勿論あえてを声に出して言わなかった。 何しろ、ルークはエドワードの忠実なしもべなんだから。